女子100メートル障害・田中佑美 カヌートレで世界切符つかむ!世界陸上9・13開幕 骨盤の柔軟性手応え 日本選手権Vも参加標準届かず
9月13日に開幕する陸上の世界選手権東京大会まで13日で1カ月。女子100メートル障害で2大会連続出場を目指す田中佑美(26)=富士通=は、7月の日本選手権で初優勝したものの、参加標準記録(12秒73)を突破できなかった。日本で開催される一大イベントへの出場を目指して、陸上一筋11年の日本の女王はさまざまなトレーニングを実践している。
世界の頂点を争う真夏の祭典まで1カ月。2大会連続の出場を狙う田中は「今、自分にできることはできるだけ良いポジションに持っていくこと。それを試合で発揮する準備をすること。今できることに集中したい」と鋭い目つきで語った。
日本選手権で初優勝した。しかし、世界選手権の参加標準記録には0秒13届かず「攻めきれなかった。もっともっと出せるはずなのに、そこの準備に追いついていなかった」と振り返る。日本一の結果も、どこか物足りなかった。
炎天下の大会で日本のタイトルは取った。なのに何が足りないのか-。取り入れたのがカヌーのトレーニングだった。
課題としているのが骨盤周りの動きの硬さ。「立体的に動かしたいけど。まっすぐのまま固まっている。硬い十字架の人形みたい」。ハードルにぶつかった時、体がぶれずに減速しにくい利点もあるというが「やっぱり(骨盤が)動いていなかったら、足も出ないしパワーも出ない」と明かす。柔軟性を身につけるため、谷川聡コーチの勧めでカヌーにチャレンジすることになった。
7月の山梨合宿の途中で取り入れた。一見、パドルをこぐ腕の力で前進するように感じる競技だが、谷川コーチは「骨盤、肩甲骨、体幹がリンクしないとなかなか進まない」と説明。「女性の場合、体幹の筋力は(つけるのも)すごく難しい。走るだけではなく、他の形で結果が分かる方が良い」と、今の田中にはもってこいの方法だった。
こぐ動作のトレーニング器具を使用し、動きを体に染みつけてから、いざ実践。田中は「1秒も乗っていられなくて、すぐ転覆した」と笑う。かなり難易度が高かったようだが、骨盤の動かし方を学び「ストライド(歩幅)が広がるかな。コア(体幹)のコントロールも足りないところなので、いろんな使い方をするのに良い影響を及ぼす」と手応えは十分だった。
陸上一筋11年。「いろんな道があると思う。今自分がいる道を正解にしていくには一歩一歩、納得していかないといけない」。宝塚歌劇団への入団を夢見た少女時代。それでも記録を追い求め「陸上の日常を選んだ」過去の自分がいる。「うれしいことがあっても、悲しいことがあっても、向き合っていくうちにしっくりくる」。最前線で戦う陸上女子はさまざまな手法を取り入れ、着実に階段を上っている。
大会で負けても「感情は追いついてこないタイプ」と自己分析するが、日本選手権2位の中島ひとみ(長谷川体育施設)が先に世界切符を手にしたことには「悔しい」ときっぱり。しかし「他人のことはどうにもできない。自分のことに集中していこうと」と割り切り、練習に励んでいる。
東京の大舞台へ。「すごく良い加速をしてトップスピードが出た上で、体をコントロールしてゴールする。それができれば間違いなく記録は出る」。参加標準記録突破を目指す次戦は「ナイトゲームス・イン福井」(15、16日。福井)。日本一の自信を手に世界切符を必ず手に入れてみせる。(デイリースポーツ・南香穂)
◆女子100メートル障害の世界選手権への道 枠は3で、一つ目は日本選手権2位の中島が7月23日にフィンランドで行われた大会で参加標準記録を突破する12秒71を出して確実にしており、残りは2。日本陸連の選考基準では、参加標準記録突破者で日本選手権の順位が高い選手が優先的に選ばれる。2番手の最有力は日本選手権優勝の田中。同大会3位の福部真子(日本建設工業)は世界ランク圏外のため、参加標準記録を突破できなければ代表を逃す。8月24日までに参加標準記録を切る選手が現れなければ、日本選手権の成績や世界ランクなどで決定する。
◆田中佑美(たなか・ゆみ)1998年12月15日、大阪市出身。関大第一高から立命大に進学し、19年の日本インカレは100メートル障害で優勝した。23年の世界選手権ブダペスト大会は予選落ち。昨年はパリ五輪に出場して、準決勝に進出した。夫は男子110メートル障害の石川周平(富士通)。自己ベストは12秒80。60メートル障害は8秒00の日本記録を保持する。





