高橋尚子さん「私の中で監督は永遠です」 弔辞全文

小出義雄さんとの思い出を語りながら空を見上げる高橋尚子さん=千葉・佐倉市のさくら斎場(撮影・堀内翔)
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 24日に死去した陸上長距離の名伯楽、小出義雄さん(享年80)の告別式が29日、千葉県佐倉市内で行われ、約600人が参列した。教え子で、00年シドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子さん(46)は「最後の手紙」として弔辞を読み上げた。

 時に涙ぐみながらも、前を向き、気丈に語りかけた。以下、高橋さんの弔辞全文。

  ◇  ◇

 監督、高橋です。Qです。つい先日まで、そうやって呼びかけると「おう。声で分かるよ」。そうやって返してくださる声も、手を握り返してくださることも、もうないというのは信じられません。

 4月18日に、最後に監督にお会いをした時に、今までになく「Q、持ってきた手紙を読んでくれよ」。そう言われました。「恥ずかしいから嫌です」「でも俺は恥ずかしい姿をお前にたくさん見せているから、頼むよ」。でも、ここで読んだら最後になってしまうかもしれない。「監督また、次すぐまた持ってきますからね」。そう言って、部屋を出た時の監督の笑顔と手を振る姿を忘れられません。あのときちゃんと読んでおけば良かった。願いを叶えておければ良かった。後悔することもありましたが、それを見ていらっしゃったご家族の方々から、最後に声を掛けてください。そう言って頂いて、最後の手紙を読ませていただくことをすごくうれしく思います。

 小出監督へ。

 監督。これまでにたくさんの手紙を渡してきました。そして、監督からも何通も頂きました。

 最初は、マラソン大会を明日に控えた夜でした。試合に対する不安や怖さだけじゃなく、スタートまで導いてくださったうれしさと、多くを費やしてくださった感謝の気持ちをどうしても伝えたくて、ペンを取り、手紙を監督の部屋のドアの下からそっとしのばせました。大会当日の朝、目を覚ますと、私の部屋のドアの下から、思いがけず監督からの手紙が入っていて、すごくうれしかったことを覚えています。それから毎回レースの前には、恒例の儀式のようになっていましたね。

 昨日、その手紙をもう一度読み返してみました。監督からは「強くなったな」とか、「毎日全力で走り、一日たりとも力を抜いた日はなかったよ」と、監督が認めてくださった言葉が、結果よりうれしかったかもしれません。また、「必ず満足いく走りができる」。「笑顔でゴールに帰ってきて」。「自分もQちゃんと一緒に走ります。気持ちだけは一緒ですよ」。そうやって、一人で走るのではなく、気持ちにより添ってくださるからこそ、堂々と、安心して、走ることができました。

 私は本当に弱い選手でした。そんな中で毎日、「世界一になろうな」と声を掛けてくださって、毎日練習後に「また行くのか」と言いながらも、ジョギングに付き合ってくださって、お酒を飲まないよう夜にお酒を隠しても、朝には机の上にしっかり出ていることも。そんな何気ない、監督と過ごした日々が、わたしには一番の思い出です。

 弱い私を根気よく指導してくださって、ありがとうございました。監督の貴重な時間を費やしてくださって、ありがとうございました。オリンピックの金メダルを取らせてくださって、世界記録を出させてくださって、ありがとうございました。どれだけの感謝の思いを述べても伝えきれません。

 3月の下旬、突然の電話にとても驚きました。「俺、あと1日2日だよ」って。「冗談やめてください」って言ったら、「今までたくさん走ってくれてありがとな。夢をかなえてくれて、ありがとな」。何が何だかパニックになってしまって、急きょアメリカから帰ってきました。成田から病院に直行して、泣きながら部屋に入ったら、有森さん、ひろ先輩、千春先輩、大塚先輩がいらっしゃって、楽しそうに笑って話されていましたね。私は気が抜けてホッとして、監督の姿をぼーっと見ているだけでした。監督は本当に楽しそうで、1時間以上監督の独演会でした。痛い苦しいは一言も言わずに、一人一人の思い出をとても細かく話している姿は、病人とは思えませんでした。でもそれは、みんなを心配させないようにする監督の心遣いなんでしょう。どんな状態になっても周りを思いやるその姿に、また1つ教えて頂きました。

 そして、何度もお見舞いに行かせてもらう中で、最後まで前向きに頑張られる姿、諦めない大切さも改めて学びました。

 最後は泣くな。笑って送れよ。そう言われました。

 たくさんのみなさんが今日、監督を送りに、そして会いに来ていらっしゃいます。私も明日からは、笑顔で前を向きます。

 人を大切にすること、周りに感謝すること、そして走る楽しさを伝えること。監督の教えを忘れることなく胸に刻んで歩いて行きます。ずっと気にしていた東京オリンピックも、空の上でビールでも飲みながら見守っていてください。私の中で監督は永遠です。本当にありがとうございました。

 最後に、入院されて、最後の貴重な時間を、お見舞いに何度も行かせて頂くことを許して頂いたご家族の皆さまに感謝の思いと、また最後にこうやって自分で監督に手紙を読ませて頂く機会を頂いたことに感謝を申し上げさせて頂きます。

 今までありがとうございました。

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