元UFC戦士・菊野克紀テコンドーでヒーローになる!岡本依子さんの誘いで五輪挑戦

 異色の経歴を持つアスリートを紹介する東京五輪企画。世界最高峰の総合格闘技団体、UFCへの出場経験もある格闘家の菊野克紀(37)=フリー=は、テコンドーで五輪出場を目指し奮闘している。2000年シドニー五輪女子67キロ級銅メダリストの岡本依子さん(47)の誘いで17年に挑戦を始めると、沖縄拳法空手の突きを武器にKOを狙いにいく型破りの戦法で、昨年はいきなり全日本選手権2位に輝いた。柔道、極真空手、総合格闘技などを経て30代後半で突如湧いてきた五輪への道。「ドラゴンボール」など漫画のヒーローに憧れ続けた数奇な格闘人生に迫る。

 「ヒーローになりたい。それが生涯のテーマなんです」。孫悟空、ルフィ、キン肉マン-。気は優しく力持ちで弱者の味方。菊野にとって、幼少期から読みあさってきた漫画の主人公への憧れが、37歳になった今でも戦う原動力となっている。

 「強くて優しくてみんなから愛される。そんな人になりたい。僕はいまだにストレートに少年ジャンプを読むし、おちゃらけも含めて友情、努力、勝利が好きです(笑)」

 強いヒーローになりたいという衝動だけで、UFCなど格闘家として着実にキャリアを積んできた。菊野にとって新たな転機となっているのがテコンドーでの東京五輪出場という異例の挑戦だ。

 「菊野君、テコンドーに出えへん?」。17年6月。知人らとの会食の席で、テコンドー界のレジェンド、岡本さんからの突然の誘いに面食らった。「は?何言ってんだって思いましたよ(笑)」

 テコンドーといえば、華麗な蹴り技の応酬でポイントを競う競技。未経験者にできるわけがない。しかし、ルールを詳しく聞いてみるとイメージは一変した。防具の上からなら、ボディーを本気で殴ることが可能でKOもできる。また、場外など反則10回で反則負けになる。「これなら戦えるかも」。好奇心が上回った。

 「根本的に僕は強くなりたい人間なので、特定のルールで王者になりたいとか全くない。根は怖がりでビビりなので、いざという時に身を守れる人間でありたいし、強くなるためならその競技に出る」

 小学生の時は気が弱く、友達から無視され、図書館で「ウォーリーを探せ」を読んで過ごしていた時期もあるが、自分を変えたくて中学から柔道を始めた。高校卒業後に極真空手に入門し、過酷な下積みを経て23歳で鹿児島から上京。総合格闘技で着実に勝利を重ねたが、判定も多く行き詰まりも感じた。

 「自分には武器がない」。30歳で運命的に出会ったのが、古典的な武術の「型」から実践的な技術を体得する沖縄拳法空手だった。

 「ボクシングなどの一般的なパンチは地面を蹴り、腰をひねり、手の力も加えて足し算で威力を伝えるが、沖縄空手の突きは地面も蹴らないし腰もひねらない。電車の先頭車両みたいに手先だけで体を引っ張るような感じで、自分の体重を相手に伝えることができるので、交通事故のような衝撃を与えられる」

 12年春に沖拳会の山城美智師範に師事すると、同12月の試合で開始8秒、顔面突きによるTKO勝利で威力を実感した。UFCから声がかかったのも、ここから秒殺が続いたからこそ。「沖縄空手の突きならテコンドーの分厚いプロテクターの上からでも効かせられる」。仮説を実証する日が来た。

 初陣の17年10月東日本予選。ハイキックKOを含む優勝で衝撃を与えた。菊野の戦い方は異端中の異端だ。相手に正対し、ポイントを取られながらも、防具の上からズッシリ重い突きを食らわせる。未体験のダメージで相手の心は折れ、圧力で後ろに下がるため場外反則が重なる。序盤劣勢でもKOか反則で勝てばいい。18年全日本選手権でも2位に輝き、強化指定選手となった。

 柔道の五輪金メダリスト、古賀稔彦や吉田秀彦を見て「かっこいい」と憧れたこともあるが、五輪はあくまでテレビの向こう側の世界だった。東京五輪出場は狭き門だが、2月の全日本選手権からのアピール次第で現実的に可能性は出てくる。

 「努力の量で負けているつもりはなかったが、五輪は格闘技とは違う道だと思っていたので、本当に可能性があるんだと。しかも僕は今が一番強いので。挑戦できることは幸運」

 世界を救うための“影響力”も菊野が考えるヒーローの一要素。入場曲はマイケル・ジャクソンらスーパースターがアフリカの貧困のために歌った「We are the world」だ。「これで入場してくるって逆にサイコチックで怖いですよね(笑)」。そして、愚直なロマンチストはふと言った。

 「一番強いのって、ドラゴンボールの悟空みたいにみんなと友達になっちゃうことなのかもしれない。合気道の塩田剛三先生も言っていたけど『最強とは自分を殺しに来た相手と友達になることだ』って。かっこいいですね」。漫画のような友情、努力、勝利を地でいく異色の格闘家が、究極の“天下一武道会”に挑む。

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