【92】野球手帳の活用 野球少年を障害から守る取り組み

 「日本高野連理事・田名部和裕 高校野球半世『記』」

 11月18、19日の2日間、東京の国立オリンピック記念青少年総合センターで日本臨床スポーツ医学会が開かれた。今年で28回目を迎え、スポーツ医療にかかわる内科、整形外科、歯科など多種のドクターやトレーナーが参加している。

 この医学会で毎回演題に挙げられるのは「野球少年のスポーツ障害予防」だ。しかも多くの講座が設定される。僕もそのうちの一つのシンポに参加してきた。最近各競技団体で取り組んできた投球制限やルール改革について意見交換をした。会場からは回数ではなく球数を制限できないか、などの質問も出た。

 中学・少年野球の関係者は、少子化が進む今、球数の制限は、対応できる投手を準備するのが困難と否定的な回答が出された。

 では野球少年たちによく起こるひじの障害についてどのような対策ができるかに話題が移った。ひじの障害は、成長期にある子供たちに投球による過度な負担を継続的にかけると発生する。

 初期段階なら休むことで完全治癒は可能だが、終末期まで進行すると生涯にわたって機能に支障が生じる。

 その対策としては適切な練習内容ということになるが、個体差もあり一律の規制では難しい。

 そこで早期発見の重要性が挙げられる。そのためには専門医による定期的な検診が有効だ。

 新潟県では2011年に県内の小学校から高校までのすべての野球組織が連携して「新潟県青少年野球団体協議会」が結成され、整形外科医と理学療法士が参画して「野球障害ケア新潟ネットワーク」を発足させている。

 試みとして野球障害の検診や治療の経過を記載できる「野球手帳」を1万部製作し、県内の小学5年生から中学2年生の野球選手全員に配布、以後は毎年5年生に配布している。

 これが毎年の定期健診の実施につながり障害の早期発見と予防に成果をあげている。

 その後神奈川県でも14年に同様の野球手帳を3万部発行、県内の学童部の全員に無償で配布している。

 内容は選手、保護者、指導者の各コーナーを作り、レントゲン写真ではなく肩やひじの仕組みをイラストで分かりやすく表示したりしており、野球手帳を教材に年数回、講習会を開催している。両県とも県高野連が主導している。

 「野球手帳」の活用は野球少年を守るために、野球界全体の課題として取り組みが始まろうとしている。

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