満身創痍でも貫いた「中田翔のフルスイング」 涙が似合う怪物、高校3年生の夏に誓ったプロでの活躍

 「中日2-6ヤクルト」(19日、バンテリンドーム)

 中日・中田翔内野手(36)が19日、ヤクルト23回戦(バンテリンドーム)で引退試合に臨み、「4番・一塁」でスタメン出場。試合後は引退セレモニーが行われ、大歓声に包まれながら18年間の現役生活に別れを告げた。高校時代から同選手を見続けてきたデイリースポーツ記者が「中田翔の素顔」を明かした。

  ◇  ◇

 他には誰もいない室内練習場に、バットとボールの衝突音が響く。2月、沖縄キャンプ。16歳から知る中田翔の背中が少し小さく見えたのは、気のせいではなかったことを今思い返している。「ちょっと付き合ってよ」。そう言われ練習を眺めていた。スイングに衰えは見えない。だが本人の表情は晴れないでいた。

 「ゴミでしょ。外角のストライクがボールに見える。オレも、もう36歳。ここから先も野球を続けられるか、ダメか。40歳までやった人は、この壁を越えたんだと思うんよ」。高校時代から怪物と呼ばれ、侍ジャパンの4番を打った。そんな男が「初めて」自分のスイングを見失っていた。「まだ早いよ」。そんな言葉しか出てこなかった。

 振り返れば涙が似合う怪物だった。野球を始めたのは小学3年生。初めて打席に立ち、バットにボールが当たると三塁に走った。「一塁ベースより近いから」。ルールすら知らなかったが試合に勝ってうれし泣き、負けて悔し泣きした日々を「野球はオレの宝物」と言う。高校3年生の夏も大阪大会決勝で金光大阪に敗れ、大粒の涙を流しながらプロでの活躍を誓った。

 「オレが一億円稼げるようになったら、いくらでもごちそうしてあげるよ」。そんな約束をしてから何度、一緒にお酒を飲んだだろうか。5月。名古屋市内にある自宅でのことだ。「最近、夢を見るんだよね」。そう言って静かに笑う姿が印象的だった。「引退試合のスピーチを考えているんよ。なんて言おう、どうやって感謝を伝えようって」。ゆっくりと心が傾きつつあるのだと悟った。

 ここ数年はビンテージ物を好んだ。70年代のジーンズに革ジャン、革靴…。レトロ調に統一した自宅ガレージにはアメ車を置いた。「渋さが分かるようになってきた。50年以上も前の物が、いまでもカッコいいってすごいよね。オレも年取ったな」。雨風にも耐え、時代を生き抜いた品々に、野球人生を重ねていたのだろう。アメ車の運転席で何度かキーを回すと、「ゴォォォォ」と音を立ててエンジンが動いた。傷だらけの体を必死に鼓舞しているようだった。

 夢でも「涙でしゃべられなかった」というスピーチは、やっぱり正夢になった。アマ野球担当として16歳の中田翔に出会ってから20年。プロでは所属球団を担当したことがない。だからこそ最後まで一人のファンとして勇姿を見届けることができた。「もう一度、野球を好きになって終わりたい」。引退会見の言葉通り痛む腰にムチを打ち、フルスイングを貫いた。中田翔を貫いた野球人生。感謝の思いとともに、たまらない寂しさが胸に残る。(デイリースポーツ・NPB担当 田中政行)

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