阪神の育成・原口「捕手」へのこだわり

 昨夏、ウエスタン・リーグの名古屋遠征の時だった。支配下登録の期限が7月末に迫る中、阪神の育成選手・原口文仁捕手(23)が本音を語ってくれた。「監督、コーチに言われた場所で全力を尽くしますよ。でも、僕の中で捕手というポジションは特別ですし、できるのであれば…」。これ以上話を進めることはなかったが、真意ははっきりとわかった。

 育成選手のキャンプ途中合流は、異例とも言うべき措置だという。2月25日からの阪神春季キャンプ最終クール。背番号124を背負った23歳の苦労人は、琉球の風を感じていた。これまでどれだけバットを振ってきただろうか。ただひたすらに1軍の日の当たる舞台を目指して-。プロ7年目、チャンスをつかもうとしている。

 持ち前の長打力は、高知・安芸の2軍キャンプでも目立っていた。掛布2軍監督も認める好素材。ドラフト1位・高山(明大)、同6位・板山(亜大)と一足先に2軍キャンプを打ち上げ、沖縄へ。「今回がラストチャンスの気持ちでいきます」。鼻息は荒かった。

 携えた商売道具は、バットと捕手のミットのみ。同級生の梅野ら、し烈なバトルが繰り広げられている扇の要に殴り込みを入れるべく、志は一つに定まっていた。2軍では一塁を守ることもあったが、気持ちは捕手一本。一歩も引くつもりはない。

 野球を始めたばかり、小学4年の頃だった。母親と自宅近くのデパートに買い物へ出掛けると、特設ステージで巨人の選手がトークショーを行っていた。ぼんやり眺めていると一人の選手に、次第に心を奪われていく。「体が大きくて、正直『すごいな!』と。それからテレビで野球中継を見ていても、自然と目がいってしまうようになりましたね」。巨人・阿部だった。

 阿部を見本に、捕手として白球を追いかけ続けた。酸いも甘いもあったが、マスクをかぶっている時間にとてもやりがいを感じていた。帝京高3年時の夏の甲子園では正捕手としてチームの8強入りに貢献。09年ドラフト6位で阪神に指名され、プロへの扉が開いた。しかし、その後は苦悩の日々が続く。12年に腰を痛め戦線を離脱すると、次第に捕手としての試合出場も減少し、一塁が主戦場に。12年のシーズン終了後には育成選手契約に移行。これまで、支配下登録を目指し続けてきた。

 15年オフ、金本知憲監督(47)が就任すると、甲子園の秋季練習で磨き続けてきた打撃に太鼓判を押された。秋季キャンプでは紅白戦で一発を放つなど、豪打全開で指揮官からMVPに指名された。

 「もし(巨人の)阿部さんと同じ試合に出られたら…。それはおもしろいですよね」

 昨年夏のあの言葉が今、思い出される。原口は、一世一代の大勝負に挑んでいる。

(デイリースポーツ・中野雄太)

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