甲子園の雨を見たかい
【4月7日】
さすがの阪神園芸も空まで整えられない。まだ小雨ぱらつく夕方6時2分、神整備された甲子園でプレーボールがかかった。園芸さんの手が及ばないところでドラマを見たのは初回の攻防である。
青柳晃洋の立ち上がり。2死一塁で村上宗隆が叩いた打球が左翼線に舞い上がると、これにチャージしたシェルドン・ノイジーが突じょ両手を挙げ飛球を見失った。
薄暮と雨の相性が悪いのか。ライン上、ノイジーが慌てて飛び込んだが、落球…そう見えた。バックネット裏の記者席からは一塁走者が三塁を蹴るのが目に入り、こちらはノイジーから一瞬目を切ってしまう失策…。しかし、新助っ人は捕っていた。ビッグプレーで青柳を救ったのだ。
一方、その裏、近本光司の飛球を追った右翼手のD・サンタナがノイジーと同じような仕草で両手を広げた。こちらは落球。左翼と右翼、守ってみなければ分からない悪天候の視界だが、結果的に近本は三塁打。続く中野拓夢の犠飛で先制のホームへかえってきた。
「きょうはやらなあかんやろ。頑張るわ」
試合開始の2時間ほど前、甲子園の通路でばったり会った阪神園芸施設部長・金沢健児はそう言ってグラウンドへ出て行った。朝からの雨が次第に強まり、銀傘をたたく音が夕方になっても収まらない。7時プレーボールか。少なくとも1時間の遅延を覚悟したホーム開幕戦…いや、頭が下がる。
雨脚が強まった6時23分、佐藤輝明の打席で20分間の中断があった。再び金沢の出番。と、そのとき…場内に流れた旋律が聞こえた虎党はどれくらいいただろうか。
クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)の名曲『雨を見たかい?』(Have You Ever Seen The Rain?)である。
僕が生まれた時代に大ヒットした洋楽だけど、甲子園球場はセンスがある。記者席で心地良く口ずさみながらゲーム再開を待った。
〈昨日も、その前も、太陽は雲に隠れて雨が激しく降っている。
僕の歩む道はずっとそんな調子なんだ。緩急をつけて、そんな日がまわり巡っている〉
この楽曲を和訳すればこんな歌詞が出てくる。時代背景も価値観も異なるのでまったくのこじつけだけど、雨のエースによく似合う…そんなふうに感じた夜だ。
七回、青柳が101球目に投じたスライダーを捉えられた。J・オスナの被弾で追いつかれたわけだけど、彼を中飛に打ち取った二回のスライダー、その残像を待たれたか。それでも失投とは思わない。青柳のスライダーは開幕戦では「良くなかった」というが、試合後、梅野隆太郎に聞けば、この日は「良かったですよ。(七回のオスナは)待たれているというより合ってしまったという感じ」と振り返った。「粘り強く投げてくれました」という梅野の総括に尽きると思う。7回1失点の甲子園開幕投手を称えたい。雨を見たかい?青柳の進む道は今年も雨空が照らしてくれる。=敬称略=
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