【芸能】三池監督テラフォーマーズ調理法

 小説や漫画を原作に持つドラマや映画が増え、今や「実写化不可能とされた」という惹句があふれかえっている。それでも、いやいや、こいつは本当に無理だろう…とツッコミたくなる作品もあるわけで、29日公開の映画「テラフォーマーズ」は、その1つと言えるだろう。火星を舞台に、人体改造され、特殊能力を持つ人類と、進化を遂げたゴ○ブリが戦う、累計1500万部超えの人気漫画が原作。不可能に挑んだ三池崇史監督(55)に本作の調理法を聞いた。

 「忍たま乱太郎」「クローズZERO」「土竜の唄」…。これまでも人気漫画の原作ものを多く手がけてきた三池監督だが、さすがにオファーを受けたときは「ムチャするなぁ。マジでか!?」と驚いたという。基本的にスケジュール以外の理由でオファーを断らないのが三池流。それでも「デジタルの世界で表現するしかない。今までの経験値を生かせない、どうなっていくのか読めない。挑戦でした」と振り返る。

 原作もので最も大事にしているのは「原作をリスペクトすること」。三池監督の哲学だ。

 「原作もののときは、お客さんは1人。原作者に、この原作を書いてよかったなぁ、と本気でそう感じてもらえるかが大事。それが世の中からどう見えるか、そこに価値があるのか、ってことはあんまり僕には関係ない」

 リスペクトの根底には、荒唐無稽な映画を製作できる喜びがあふれている。

 「『テラフォーマーズ』は、企画だけ出版社に持って行ってもタイミングによっては一蹴されて終わりですよね。それが時代と合って、ものすごい競争の中で出版にこぎ着ける。そして、人気が出て、作品も加速していく。そういうものがあって、初めて作れる映画。オリジナルでこのプロットを出したら『こいつ大丈夫か?そんなの映画になるわけねぇじゃん』って言われますよ」

 原作がなければ映画として世に出ることはできなかった、想像力の極地ともいえる世界観をカメラに収めることができる感謝。だから調理に言い訳は持ち込まない。原作というレシピはあっても、映画になればアレンジは変わってくる。

 「原作者とは漫画について、あまり話し合ったり、質問したりはしない。もちろん、脚本のチェックや実写に当たってキャラをこう変えたい、という話は聞きました。でも、漫画を通して伝わった読者目線で、自分の解釈で撮る。それをあらかじめ原作者にぶつけて、伝わるか、許せるかってところを先に話しちゃうと、どっかで緊張感がなくなる。『言った通りにやってますよ』みたいになっちゃうから」

 いわば原作者とのガチンコ勝負。責任はすべて俺がとる-と映画ならではの形に料理していく。

 「興行をよくするためには、こうだろうな、という基準は自分の中にはあるわけですよ。でも、それは自分が楽しいかがベースになっていないと自分が発想していないものを撮り続けることになる。それは避けないといけない」

 武井咲、山下智久、山田孝之、小栗旬ら主演級の豪華キャストが脇を固めたことでも注目されているが、ここにも戦略がある。主演級が抱えるフラストレーションを画面に押し込めたという。原作の持つ本質的な魅力を最大限に引き出す“ガーニッシュ(添え物)”だ。

 「(映画は)完成度を競うものかってところに疑問があるんですよね。どっか破綻してるけど好き、とか、芝居ヘタだけどこの俳優いいんだよね、みたいなのがいいと思う」

 ハリウッド映画のように何百億円もかけて製作することは不可能。限られた予算で、火星での異能力戦という荒唐無稽な物語を描ききる必要がある。

 「最初は(キャストも)不安だったと思うんですけど、2、3日撮影しているうちに面白みを見つけて、そこに集中していく。いい意味で言うと“信頼関係”ができていく。悪い言い方をすると大事なところを“諦める”“捨てちゃう”。『まあ、いいや。思い切ってやってみよう』って。“信頼”と“諦める”“捨てる”っていうのは、ほぼ同じ意味ですよね」

 現実的に作品として成立させる解決策を見い出し、キャストと共犯関係を築いていく。実写化不可能を可能に変転させていくエネルギーは、パワフルでリアリスティックだ。

 「浅くて多くの人に愛してもらわないと生きていけない世界になっちゃってる。1人にめちゃめちゃ深く愛してもらえたら食べていける世界ではないので、もともと俳優はイライラしてると思うんですよ。

 だから、うちの現場にいると解放されるんですよね。失敗を恐れないし、慎重になる必要なんかない。『監督のせいでしょ?』って」

 常識が通用しないのが三池組。「クローズZERO」を撮影した際には、実際に使われたセリフは台本の2%ほどだったという。「不良が台本通り読むわけねぇじゃん、って。不安定で不確かなんですが、自分が映画を作るってそういう感じなんです」と笑い、続けた。

 「主演になっちゃうと共感してもらわないといけないし、同じような、善側を求められる。それで脇をやりたくなる。小栗とか山田孝之とか、脇で自分勝手にやってみるっていうね。今回はまさにそう。守りに入っちゃう人はそもそも俳優に向いてないですよ。抑圧された俳優が、抑圧されたスタッフと、抑圧された作品を作る、それで面白くするのは、たぶん無理ですよね」

 火星に送られるのは、それぞれの事情を抱え、人体実験を受けた“人類のクズ”たち、という設定。「三流の外国人より一流の日本人の方が絶対に面白い」との理由で、原作とは違い、全員が日本人に設定変更されているが、根底に流れる精神性は変わらない。

 「俳優ってチヤホヤされているけど、孤独感の中にいるんですよね。人気があればあるほど恐れる部分がある。そんな彼らが地球のゴミ、クズたちを演じる。自分たちがリアルに感じてしまっている不安とか不満、ないものではなくて、あるものを使って演じるからできたと思う」

 ハリウッドのように役作りに1年単位の時間が与えられることは、現状の日本では皆無だ。「非常に訓練された人間の役なら、全部が作り物になってしまう。そういう時間は日本映画では、なかなか与えられない。短い時間を最大限、有効に使うには、その人間の持っているものを使う」。三池監督が言うところの孤独感が強い主演級を並べた、いわば“食材”の選び方には大きな意味があった、というわけだ。

 いい意味でバカをやりたい飢えた演技派たちを集め、決して迎合せず、自分のリスペクトを全力投球する。これが一貫した三池シェフのスタンス。加えて“スパイス”にも手間をかけた。

 もう1人の主役と言えるのが、全編を彩るCG。総カット数は872カットに及ぶ。コンセプトは“火星で『クローズ』する”。だが、俳優たちは、のちにCG処理される、そこにはいない敵を相手に演技やアクションをしなければいけなかった。

 人間よりも巨大なテラフォーマーとの距離感や現実感を把握するため、実際には3体の人形を製作。190センチを超える長身の俳優を集め、型を取り、アレンジした。リハーサルでは人形がいるが、本番ではなし。

 「(CG処理が前提なので)手応えがつかみづらかった。シーン全体を切り取ってOKを出すんじゃなくて、一部の人間の動きだけを見てOKする現場。一般に7割が現場の作業だとすると、今回は3割もない。かといって、人間の芝居を“素材”と考えるのも気持ち悪い。やっぱり俳優も相手がいて、リアクションが見えていると『決まった』っていうのが分かるから気持ちいいんですね。その空気がないのは大変だったかもしれない」

 原作同様のコケで覆われた火星の大地を再現するため、邦画初となるアイスランドでのロケを敢行し、実景を撮影。現地では映画「インターステラー」のスタッフが参加した。

 膨大な予算を世界観の構築に費やす一方、テラフォーマーのモーションキャプチャーは三池シェフが自らアクターを務めた。

 「自分がこうして欲しいなっていう動きが、そのままデジタルデータになる。なら自分で再現すればいい。誰かにあーしてこーしてと言うのは、CGカット数が膨大なので、指示も膨大。時間的にも無駄だし、経費と予算の削減ですよ」

 三池監督の脳内モーションが直下型で投影された結果、テラフォーマーは不気味かつ怖く映り、作品のクオリティーを押し上げた。

 原作へのリスペクトに豪華俳優陣のフラストレーションを添え、CGをスパイスとして振りかけた。できあがった料理=映画は、ごった煮で武骨な男料理だがエネルギッシュだ。おなかを壊すかもしれないが、シェフは「子供たちが見て、トラウマになる」ことを狙う。レストラン「テラフォーマーズ」のミシュラン星は、果たして-。(デイリースポーツ・古宮正崇)

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