【ライフ】仙人風呂のある秘湯川湯温泉

 露天風呂の広さはさまざまだが、一度に1000人が入れる無料の露天風呂は、日本広しといえどもそんなにはない。今回はこの時季、川自体が温泉で、混浴露天風呂のある和歌山県の秘湯・川湯温泉にスポットを当ててみた。

  ◇   ◇

 湯の峰、渡瀬、川湯の3湯合わせて熊野本宮温泉郷と言う。そのうちの一つ、和歌山県田辺市本宮町にある川湯温泉の大露天風呂に、25年ほど前の大学時代に秘湯を求めて小型四輪駆動車で紀伊山地を走り回っていたころに出合った。温泉街を流れる大塔川の底から73度の湯が湧き、川の水と混ざって適温となり、自然の温泉となっている。

 大きさは幅40メートル、奥行き15メートル、深さ60センチで、その名は仙人風呂!修行に来た後、疲れを癒やしてくれる雰囲気で、手足を伸ばしてもあり余るその広さと、抜群の開放感という魅力にはまってしまったのをついこの間のように思い出す。

 夏には河原のあちこちをおのおので掘り、マイ温泉をつくって漬かっている姿に衝撃と、うらやましさを覚えたものだ。その時、次回は私も温泉を掘ろうと、車の背中にスコップを背負い、いつでも対処できるようにしている。

 男女4人で行った時には、私以外が水着で入ったのに少々気後れしたが、私は堂々と裸浴!着替えに時間が掛からないので、一番に川の深い所に進んで行った。その時、魚が2匹足元から「一緒に入ろう」と、誘ってくれたかどうかは分からないが、ペアで泳いで行ったのを今でも鮮明に覚えている。それから数々の温泉に入ってきたが、後にも先にも天然の魚と一緒に風呂に入ったのはそれ1度きりだ。

 その昔、仙人と千人をかけた「千人風呂の日」と名付けた1日限りのイベントが行われ、実際1000人は集まらなかったらしいが、それでもたくさんの入浴者の写真を撮ったポスターを見た覚えもある。老若男女を問わず、よく集まったなあと感心したものだ。

 電車は通わずバスも1日数本だけ。夜に寝転んでたくさんの星を眺めながら入る仙人風呂は、空に吸われそうで秘湯に来たなあと、しみじみ思う。現在は水着着用となり、当時のようなスタイルでの入浴は出来なくなったが…。

 ある年の夏に台風で大塔川が氾濫して、川湯温泉自体が被害を受けた。仙人風呂にも災害の爪痕が残り、パワーショベルで復旧作業をしている映像をテレビで見た時には心配になって、実際に見に行った。自分の目で見て確かめるまでまでウソだと思って信じたくなかったが、テレビと同じ状況を確認するとショックで、「早く元に戻してくれ~」と、心から祈ったものだ。

 結局その冬にも入りに行って、整備されてよりきれいになった仙人風呂のありがたみをヒシヒシと感じてうれしくなった。

 仙人風呂の泉質はナトリウム・炭酸水素塩・塩化物泉でpHは7.0。現在の川湯温泉は宿泊施設は11軒で、アユ、アマゴの川魚はもちろん。熊野牛や紀伊勝浦港で水揚げされたマグロ、サンマ寿司、知名度のある高菜で巻いためはり寿司や、ほうじ茶で炊く茶がゆに、温泉水でゆでる湯豆腐など、豊富な郷土料理でもてなしてくれる。

 紀伊田辺駅からは2時間弱。新宮駅からでも1時間弱と、秘湯という名がピッタリの川湯温泉。現在も仙人風呂は無料で開放中だ。今年は田辺市合併10周年記念で3月21日までと、例年より長く楽しめるのもうれしい。

 満天の星を眺めながら入浴すると仙人になった気分になるかもね。

(デイリースポーツ・柴田直記)

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