【スポーツ】スケボー五輪で新たな文化

 20年東京五輪で開催都市が提案できる追加種目について、大会組織委員会は28日、都内で種目追加検討会議と理事会を開き、野球・ソフトボール、空手、スケートボード(ローラースポーツ)、スポーツクライミング、サーフィンの5競技18種目を選んだ。

 スケートボードは、サーフィンやスポーツクライミングとともに、若者への訴求力を重視する国際オリンピック委員会(IOC)の意向を反映した形で、路上コースで技を競う「ストリート」と、四角いエリア内にセクション(障害物)を設置して技を競う「パーク」の男女計4種目が選ばれた。

 日本ローラースポーツ連盟の会見にオブザーバーとして出席し、組織委の発表を聞いた日本スケートボード協会の横山純事務局長は、喜びの表情を見せた。「今日でスケートボードの歴史が変わった。路上の悪ガキがやってる遊びというイメージから、五輪のメダルを目指せるスポーツとして世の中から認識される。国民栄誉賞を取るやつだって出てくるかもしれない」

 一方で戸惑いもある。日本ローラースポーツ連盟の中にスケートボード委員会が設置されたのは今年の5月。五輪種目化に伴う組織作りや選手強化も急ピッチで進めなければならない。横山氏は「これからが大変」と汗を拭いた。

 その独自の文化も見逃せない。スケートボードは、サーフィンや冬季種目のスノーボードなどとともに「横乗り系」と称され、音楽やファッションなどと強く結びついている。横山氏が「スケートボードの世界では、玄関のドアを開ければすべての場所がフィールド」と話すように、愛好者の間では、路上で自由にボードを乗りこなしながら表現を行ったり、交友関係を築くライフスタイルとして浸透している。

 そうした文化は、競技性にも影響を及ぼしている。宮沢武久スケートボード委員長は「ほとんどの選手は国籍と言うより個人で上を目指して活躍している」と話す。五輪に代表される近代スポーツが競争原理や勝敗志向を重視する特徴を持つのに対し、“横乗り系”においては、各人の自由な表現、文化の発露、競技そのものを楽しむことが重視される。

 国際大会でも実績を残し、5年後のメダル候補として期待される18歳の瀬尻稜(ムラサキスポーツ)は「東京五輪では金メダルを目指したいけど、それよりも楽しむことが大事だと思っている」と正直な思いを打ち明ける。

 98年長野五輪から採用された冬季種目のスノーボードでは、10年バンクーバー五輪で日本代表選手がその容姿によってバッシングされる“事件”が起きた。その背景には勝敗にこだわる近代スポーツと、表現の発露であり、勝っても負けても「楽しむ」という“横乗り系”との価値観の相違があったように思われる。

 こうした競技的、文化的特性を鑑みると、このような“横乗り系”競技が夏季五輪でも種目化することは、単なる若者に人気の一種目としてだけでなく、世界中の人々に多様なスポーツの楽しみ方を提示するチャンスにもなりうる。スノーボードがすでに冬季五輪で欠かせない種目となっているように、東京五輪からスタートするスケートボードが、新時代の五輪の旗印になることを期待したい。

(デイリースポーツ・藤川資野)

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