星稜・山下総監督&西谷監督対談【6】

 2016年、高校野球は次の100年が始まる。デイリースポーツでは評論家の山下智茂氏(70)=星稜総監督=が全国を旅し、次世代の高校球界を考える新企画をスタート。第一弾は春夏連覇など監督として自身4度の甲子園優勝を成し遂げた大阪桐蔭・西谷浩一監督(46)を直撃した。生駒山地の自然に囲まれた大阪府大東市の同校では、山での走り込みや神社の階段登りなど昔から変わらない冬場のトレーニングが繰り広げられていた。練習を初視察した山下氏が強さの秘密に迫った。(取材、構成=編集委員・船曳陽子、重松健三)

  ◇  ◇

 -高校野球は新たな100年を迎える。これからの課題は?

 山下監督(以下、山)「一番の問題は子供がいなくなることでしょう」

 西谷監督(以下、西)「うちはいろんなクラブがあって、女子サッカーはなでしこブームの前にできたんです。当時はサッカーやっている子は少なくて、それをどうやって増やすかって先生方はすごく考えておられた。1週間に1回、小学校低学年の子たちを一緒に練習させていた。近くの子らにビラをまいて一緒にやろう、サッカーはこんなに楽しいと。下部組織をつくって去年くらいからようやくそこの出身のレギュラーが出てきて、先生方はすごく喜んでおられた。でも、野球界はあぐらをかいている。メジャーなスポーツだという感覚がある。僕らの頃は小学校は全員が野球を始めていた。今は子供も減っているし、そういう時代なんで、危機感は持たないといけないですね」

 -放っておいてもみんなが野球をやる時代ではない。

 西「ジャパン(U-18)の時にも選手にそういう話をしました。日本開催だし、小学生とかがジャパンのユニホームを着たいと思える戦いをしてほしいと。もちろん勝てたら一番いいけど、まずそういう気持ちを持ってやろうと」

 -東京五輪もある。

 西「3年前の松井(桐蔭学園-楽天)と森のバッテリーのジャパンの時は、台湾で東京五輪の発表を聞いたんです。その夜に、日本なら野球も復活するんじゃないか、この中から絶対誰か出ろよと話しました。今回は日本開催で、みんなにはそういう(責任が)あるんだぞ、いいかげんなプレーはできないぞと話した。だからオコエとか『五輪、五輪』と言っていた」

 -今までの高校日本代表は、そこまでの緊張感はなかった。

 西「だんだん変わってきましたね。大谷とか藤浪らの時からか、テレビの影響もあるでしょう。ジャパンに入りたいという子が多くなったのは、今までなかったことです。親善試合は甲子園上位校へのごほうび旅行みたいなところがあったけど、そこは変わってきている。侍ジャパンのユニホームが着たいと、世界に目が向いてきた。サッカーの影響もあるし、グローバル化もあるでしょう。いいことだと思います」

 山「甲子園塾をつくった時に、尾藤(公=初代塾長)さんに世界に挑戦するような若者を育てようと言ったら、とてつもないことだと言われました。でも、西谷監督は世界を相手に戦った。あと一歩で世界のチャンピオンになれるところまで行った」

 西「その辺りであの大会は意義があると思います。今の2年生は、来年は(2年に一度の)ワールドカップはないんですか?僕らどうするんですか?って聞いてくる。来年はアジア選手権でいい勉強するんやって説明していますが、さみしそうだった。そう感じるのはすごいなと思って。僕らが高校の時にジャパンに入りたいなんて思ってなかったです」

 -一方で高校野球が日本の文化である側面は変わらない。

 西「毎年うちの選手に言うことがあります。グラウンドも人工芝になったりとか、いろいろ周りは変わっている。でも逆に変わってないものを探そうと。あんまり浮かばないけど、一つだけ浮かぶのは、野球少年の甲子園に対する気持ち。小学1、2年生の時から少年野球の大会で優勝したいじゃなく、甲子園に行きたい、プロ野球選手になりたいと思う。甲子園に行きたいという気持ちはほかの競技にはないし、環境が変わっても変わってない、これはすごいこと、その気持ちは絶対に大事にしないといけない」

 山「だけど甲子園球場は一番いいよね。どこの球場に行っても米国に行っても思うけど、世界一ですよね。あそこに一回出たら、また生徒を連れて行きたいなと思うんです。アルプス席も一体になって、ああいう教育ができる場所はない。でも、これからの高校野球のためには少年野球の指導者を考えないといけないね。勝つことばかり考えている監督が多い。いかに野球が楽しいかを教えないと」

 西「下になればなるほど指導力がいると思います。プロが簡単だという意味ではなく、理解をさせる、興味を持たせないといけないという意味で」

 -PLを倒し、優勝を何度も経験した今のモチベーションは?

 西「やはり日本一になりたいということは変わりません。一球同心を成し遂げて、それで日本一になりたい。みんなでつくりあげて日本一になりたい。藤浪がいるから、誰かがいるからじゃなく、常に日本一を意識させてそうなりたい。満足感は何もないです。今も全然ないです」

 山「そうなったらダメですよね。僕はその例ですね。準優勝して満足して、ここでやめようかなって。それで、忘れ物したなともう一回挑戦した。そのちょっとした油断がダメですよね。でも、甲子園はいいよね」

 西「世界一です」

 山「今日の練習を若い監督さんに見せてやりたいね。大阪桐蔭は有名選手を連れてきて勝っていると言う人もいるけど、最後まできちんと面倒を見ている。西谷さんは体は大きいけどすごい気配りの人。ものすごい動くよ。手抜きをしない。どんどんと高校野球を引っ張っていってほしい。私はよく『美しくあれ』というんだけど、強くなればなるほど、美しくあれと思います。西谷さんは太ってるけど美しく見えるよね」

 西「…(苦笑)」

 山「体を心配しているんですよ。日本の宝だからね」

 西「ありがとうございます」=終わり

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