大瀬良、中継ぎ経験は将来への財産
広島の大瀬良大地投手が、セットアッパーとして力を発揮し始めている。昨年の新人王右腕は、6月10日・西武戦(西武ドーム)から中継ぎに転向し、以降4試合中3試合で失点した。一時はリリーフ適性を疑問視する声もあったが、7月1日・巨人戦(東京ドーム)から、同24日現在までは無失点登板を9試合継続している。中継ぎ転向後の苦悩と適応するまでを追った。
昨年10勝8敗、防御率4・05で新人王に輝いた大瀬良は、今年も順調に開幕ローテに入った。2年目のさらなる飛躍を期待された。しかし、好投すれば打線の援護がなく、援護を受ければ失点を重ねる悪循環が続いた。6月3日・日本ハム戦(マツダ)まで1勝6敗、防御率3・43と苦しんだ。
チームはその頃、開幕からリリーフ陣が打ち込まれる場面が目立ち、最下位に沈んでいた。緒方孝市監督は大瀬良の中継ぎ転向を決めた。「キャンプから先発の柱として頑張ってくれ、と言っていたのに、チーム事情でこうなった。本人には申し訳ない、と伝えた」。防御率が示す通り、決して“先発失格”のらく印を押したわけではない。チームを浮上させる秘策として、大瀬良に白羽の矢を立てた。
しかし、大瀬良は結果を残せなかった。初リリーフの6月10日・西武戦では2回2失点。同点に追いつかれ、先発した野村祐輔の勝ち星を消した。チームも敗れ、試合後は「何と言っていいのか…。申し訳ない」と、ショックを受けていた。以降も失点が続いた。
大瀬良は「リリーフは先発や野手、チームのいろんな人の思いを背負って投げるポジションだと分かった。そこが大変なところでもあり、やりがいでもある。本当に大事な役割だと分かりました」と話す。
リリーフの重要性を身をもって知ったことで、プロとしての自覚をさらに高めた。失点が続く中で結果を出すべく、修正を重ねてきた。今は9試合連続の無失点と、適応はできつつある。
ブルペンでは当初、20~30球を全力で投げて肩をつくった。現在は12球前後。最初は7割程度の力で、最後の2球を全力で投げるように変えた。肩をつくる時間が大幅に短縮された。
待機中は試合展開を追うだけでなく、捕手の配球を意識するようになった。「自分がマウンドに上がったら、どういう配球になるのか、打者はどう狙ってくるのか、自分が投げる時の打線の巡り合わせだとか、たくさんのことを考えるようになりました」と話す。
マウンドでは1球の重みをより意識するようになった。「先発の時はテンポを意識して、どんどん投げるようにしていた。今は1球1球を大事に投げています」。遊び球はない。全てが勝負球。武器はやはり直球だ。「高さを間違えないように気をつけています。少し浮いた時でも、真っすぐで差し込める場面は増えています」と、手応えを口にした。
立ち振る舞いも変わった。先発時は気迫を前面に出していた。今はピンチを迎えても、抑えても淡々と投げるようになった。「永川さんや中崎を参考にしました。自分の表情や立ち振る舞いで、相手に隙を与えてはいけない」と、説明した。
緒方監督は「彼は将来のエースだから」と、いずれ先発に戻す構想を抱いている。その時、今回の経験は生きてくるはずだ。かつての大野豊、佐々岡真司のように先発、リリーフ両方で実績を残した先人たちに、大瀬良が続く期待も膨らんでくる。
大瀬良は後半戦に向け「緊迫する登板も増えてくると思う。でも一喜一憂せず、チームに貢献していきたい」と誓った。その表情には、確かな自信が芽生えていた。(デイリースポーツ・山本鋼平)
