2025.02.25

“而立の巧腕”大井所属・笹川翼　サウジＣデーで得た貴重な経験　飽くなき探究心で地方から世界へ

　現地時間２２日にサウジＣデーが終了した。中央、地方合わせて１８頭の日本馬が参戦し、サウジＣを制したフォーエバーヤングをはじめ６競走中４競走で勝利。日本馬の存在感を世界にまざまざと見せつけた。

　個人的に熱視線を送っていたのが、兵庫競馬所属のイグナイター（牡７歳、兵庫・新子雅）とともにリヤドダートスプリント（１１着）に挑んだ地方所属の笹川翼騎手（３０）＝大井・米田英。記者と同じ９４年生まれのジョッキーは少なく貴重な存在。普段は栗東で取材している私にとって接点が乏しかったが、いつか取材したいと考えていたホープだ。まさかサウジアラビアでそれがかなうとは思ってもいなかった。

　地方所属として海外へ行くという意義をどう捉えているのかが気になっていた。そもそも、地方馬の海外グレードレース出走は今回が１１度目の事例。地方所属の人馬が海外遠征を敢行すること自体がまれだが、「ジョッキーになった時から、海外でやっていきたいという気持ちがありました」と、早い段階で海の向こうを意識していたという。昨年２月にはカタールで武者修行。その翌月にはイグナイターでドバイゴールデンシャヒーンに挑戦（５着）した。「去年に引き続き、こんな大きな舞台で乗らせていただくのは騎手として光栄です。参加するだけではなく、去年ああやって行ったからこそ、こういう地で勝ちたいという気持ちが強くなってきています」と、海外への思いは日々強まるばかりだ。

　騎手として初めて海を渡ったのはデビュー４年目の１６年。フランスに厩舎を構える日本人の小林智厩舎を拠点に約１カ月半、騎乗技術を磨きつつ見聞を広めた。レースには４鞍に騎乗。結果は出なかったが、得るものは確かにあった。「南関で勝たせてもらっていましたが、世界のトップを見ることで、自分はまだまだなんだなと」。決して井の中の蛙（かわず）にならず、見据えるのはさらなるステージ。「結果はもちろんですが、単純に馬乗りをうまくなりたいという思いが一番強いです。答えがないことですし、騎手をやる限りは追求していって、よりトップに近づけるように」と、アスリートとしてあるべき姿を体現し続けている。

　国内外で経験を積み、全国リーディングも射程に入ってきたが、おごることはない。「先生やオーナー、馬がいないと始まらなかったこと。感謝しています。自分だけが頑張ったからここに来られたわけではない。そこは勘違いしないようにしなければならないと、日々思っています」。今の活躍もあくまで周りの支えがあってのこと。それを肝に銘じながら、高みを目指している。

　「ジョッキーは個人的に完成しないと思っているけど、ひたすら馬に乗るのが上手になって、そしたら勝ち星は絶対増える。こういう舞台に来させてもらうと、こんな大きなレースに乗りたいなと思います。年々それが強くなっている。自分ももう３０なので。意外と時間がないんです」

　『まだ３０歳』ではなく『もう３０歳』。同学年の私にも刺さる言葉だ。こんな自分も刺激を受け…なんて言うとおこがましいが、飽くなき探究心で頂を目指す而立（じりつ）の巧腕が、再び世界に羽ばたくその時を楽しみにしたい。（デイリースポーツ・山本裕貴）