坂本誠志郎へ詠む子規の歌

 【2月13日】

 坂本誠志郎は正岡子規の歌に触れながら1月の自主トレに励む。触れる…といってもいつも目にするわけではないが、子規の句が眠る聖地で研鑽を積み、戦う準備を整えるのだ。

 年始、ヤクルト中村悠平らとともに愛媛県松山市で合同練習を行う。今年も「坊っちゃんスタジアム」を拠点にキャンプ前の2週間汗を流した。坂本にとって恒例になって久しいが、中村への師事を志願して実現した互恵の時間は充実していたようだ。

 ところで、これは僕の夢想だけど、坂本が侍の同志中村とともに松山で勉励していることに「捕手」としての運命を感じる。阪神の司令塔が宜野座を離れ、侍ジャパン合宿地の宮崎へ向かった日にそんな話を書きたくなった。

 松山が生んだ俳人正岡子規は熱心な野球愛好家だった。子規の幼名だった「升(のぼる)」から「野球(の・ぼうる)」と雅号を名乗り、ベースボールを「野球」と表記した文学者であることは有名だ。では、明治時代に東京大学予備門(東大教養学部の前身)でベースボールを知って野球に熱中した子規のポジションは?

 捕手だった。

 坊っちゃんスタジアムの正面に「の・ボールミュージアム」が隣接され、子規の功績と野球資料が展示されているが、そこにこんな句が収められる。

 「球うける極秘は風の柳かな」

 子規がベースボールについて詠んだ歌で捕球のコツを「風の柳」と表したもの。風に揺れる柳のように柔軟に捕っていたのだろうか。その心を勝手に現代風に変換すればフレーミング…。 ミットを流さず際どいコースをストライクと判定させるスキルといえば、球界屈指といわれるのが坂本である。

 シカゴ・カブス時代のダルビッシュ有から「うまい。バッテリーを組んでみたい捕手」として名を挙げられたことは阪神ファンもよくご存じ。MLBの最多勝右腕からフレーミングを絶賛された坂本が「そんな方から名前が出てビックリしています」と目を見開いたのは20年のこと。

 あれから6年。このたび、そのダルビッシュが侍ジャパンのアドバイザーとして宮崎合宿に参加することが正式に決まった。3年前の強化試合でも対面したが、侍の同志としての再会は間違いなく楽しみでは?その思いを確かめたくて宜野座を発つ坂本を待った。

 「WBCの経験もあって、メジャーでもずっと投げている方なので…。分からないことや気になることを経験のある方に聞けるのはすごく大きい」 

 宮崎便の出発時間が迫っていたので根ほり葉ほり聞けなかったが、坂本はキリリとした面持ちでそう言った。

 僕が次回坂本に会うのはWBCの本大会がすべて終わったあと。だから、景気づけに「捕手を愛した子規」のこんな歌を贈ろうと思う。

 「打ちはづす球キャッチャーの手に在りてベースを人の行きがてにする」

 打者が空振りした瞬間の捕手と走者の情景描写だ。マスクをかぶった坂本が歓喜するラストシーンは三振ゲッツー…。子規も祝う。=敬称略=

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