牛若丸が見守る遊撃争い

 【2月2日】

 ファーム監督の平田勝男から手招きされた。「ちょっと入って来いよ」。ランチを終えた束の間のブレークタイム。ファームベース具志川のメイン球場で新年の挨拶をさせてもらった。

 平田流の雑談を拝聴しながら、この時節だから、タイガースの大先輩、あのレジェンドの話もさせてもらった。

 きょう2月3日は一年前に亡くなった吉田義男の命日、もちろん平田にとっても特別な日だ。

 「2月3日?せやな…」

 阪神遊撃手の系譜を継いだ者だから心入れがきっとある。が、残念ながら筆者は牛若丸の現役時代をモノクロでしか知らない。華麗なグラブさばきを当欄で生々しく伝えることはできないが、その代わり、よっさんが手塩にかけた名手についてこの周忌に…。

 85年の日本一遊撃手、ご本人に吉田に師事した現役時代を回想してもらった。レギュラーに定着してからの経験談として教えてほしい。ぶっちゃけ、その座を本気で脅かされると感じたことはあったのか。平田は言った。

 「それは、しょっちゅうだったよ。掛布さんと岡田さんはもう鉄板だったけど、ショート、セカンドの候補はいつもドラフトの上位で獲ってたから。今のヘッドコーチの和田(豊)とか、八木(裕)も…。毎年キャンプでどういうバッティングするのかなとか、どんな守備をするのかなとか…」

 昔も今も変わらず毎年のように…。それにしても、長い球団史で今年ほど熾烈な遊撃争いはないのでは?

 「ひしめき合うよな。若手でも山田がいて、佐野がいて、いまは上(宜野座)に百崎がいて。すごい競争だよ」

 キャンプ初日に宜野座でシートノックを見れば、小幡竜平、熊谷敬宥、そして新助っ人キャム・ディベイニーが遊撃で鎬を削っていた。平田が見守る具志川のシートノックでは、23年の日本一ショートが溌剌と混じる。

 「今はほかの人を見ている余裕もないですしね、結局…。『自分を見る』という意味では、そこは必要ないのかなと…。自分と話をしてどういうふうにやるかを考えたほうがいい。ここまで(プロで7シーズン)やってきて思うところではありますね」

 具志川で木浪はそう語っていた。この日のランチ特打は高確率でヒット性の角度をつけた。逆風を切り裂く右翼へのオーバーフェンスは、新人時代に菅野智之を撃ったプロ1号を彷彿とさせる軌道だった。今はファームに身を置きながら打撃も守備も何もかもベクトルを自分だけに向ける。かつて激励された大先輩への感謝も携えながら。

 「吉田義男さん…時代は違いますけど、言ってみれば、イチローさんに話し掛けられたようなもの。それくらいのレジェンドの方に声を掛けてもらえただけで光栄でした。もう一回頑張ろうという気持ちはすごくあるので。いい報告ができるように自分が今できることをやるだけかなと…」

 みんな勝て。そんな気持ちで遊撃手を見る春だ。小幡にも熊谷にも…レジェンドの後継になるべく戦いについて近々本音を聞きたい。=敬称略=

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