ありがとうを言わせない
【11月22日】
晴れの御堂筋で雨の御堂筋を思い出した。記憶を03年にタイムスリップさせれば、ずぶ濡れのパレード取材が忘れられないけれど、藤川球児はあの星野仙一の言葉を覚えているだろうか。
さすがに無理かもしれない。いや、それが、覚えているようなコメントだった。蒼天のもと、パレード前のセレモニーで球児は御堂筋沿道のファンに向け、こんなふうに挨拶した。
「私は05年以来、20年ぶりです。当時を思い出すと、来年もおそらくこの景色を見られるだろうと思っていたところ、18年かかっています。(阪神秦雅夫オーナーから)優勝したあと『絶対に連覇するぞ』と。『あのときの屈辱を忘れるな』と…。来年91年目。連覇を必ず成し遂げます」
05年?もちろん覚えている。
03年に続いて御堂筋は再び雨模様だった。歓声に手を振る若かりし球児の笑顔が懐かしい。
あれから20年。指揮官になった背番号22がこの景色を前に何を語るのか楽しみにしていると、満悦に浸るどころか06年の屈辱が口を突いて出てきた。
05年は2位中日に10ゲーム差をつけて頂点に立ったが、06年は優勝した中日に3・5差で連覇を逸した。当時を思い起こせば、球児は涼しい顔でイニングまたぎをこなし、故障に苛まれる中で最優秀中継ぎのタイトルを2年連続で獲得した。チームの支柱としてフル回転しただけに、あのV逸の傷は忘れられないのだと思う。
そして、もしかしたら闘将が03年に残したコメントも…。
当時56歳だった星野仙一は言った。
「ファンに『ありがとう』と言わしちゃいかんのや」
18年ぶり?何年も何年も待たせるから感謝されるんやないか、と…。
03年11月3日、御堂筋の沿道から飛んできた「ありがとう」の大歓声が胸に刺さったのか。あの年限りでタテジマを脱いだ星野は半端なく翌04年の優勝、つまり連覇を願っていたのだ。
85年、03年、05年、23年、25年…行儀良くこのサイクルを守れば、次のVは18年後の2043年?猛虎が再び御堂筋に戻ってくるのはルーキー伊原陵人が43歳になった年になる。そりゃ、ファンから涙ながらに「ありがとう」と崇められる。何をアホなことを…と笑われるかもしれないけれど、いや、球児の言う通りで、05年だって誰もその後18年間もVから遠ざかるなんて考えもしなかったわけで。それだけ勝負事は怖いということだ。
45歳の球児はこの日、連覇を「したい」とは言わなかった。「成し遂げます」と言い切った。安芸のキャンプを終えた後は「冬眠します」と繰り返し話しているけれど、「眠る」つもりはないと思う。自軍の戦力を省察し、したたかに勝つ準備を整えている。
取材の限り、フロントは補強に余念がない。新外国人も獲る。そうなれば現有戦力の心がたぎる。連覇には「ケミストリー」が要ると球児は語る。ファンに感謝させないためにも強化の根拠を整える冬にしなければならない。=敬称略=
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