チームのためではなく…

 【10月8日】

 南郷スタジアムの三塁側スタンドに西武ライオンズのスローガンが掲げてあった。今年は「ALL ONE」。他球団のそれをあまり気にしないので失礼ながら、今頃になって知った。

 ちなみに、どういう意味?

 そこに併せて記してあった。

 「選手個人がチームのためではなくまずは自分のために良い成績を残して活躍することで、結果的にチームは強くなる」

 西武監督の西口文也が自ら考案したものだという。

 6位、3位、5位、6位、5位…最近5年で4度のBクラス。言うまでもなく低迷期の真っ只中である。松井稼頭央の後を託された新監督の「現状をなんとか打破したい」という熱意がスローガンに滲む。

 それにしても楽しみだったはずだ。フェニックス・リーグで才木浩人と対戦できる。嬉しいに決まっている。三塁側の上段席から一塁ベンチを眺めれば、マウンドの背番号35に食い入る若獅子たちの視線が胸アツだった。

 才木は無安打投球。申し訳ないが、当然そうなる。それでも、血気盛んなフルスイングで「自分のために」猛虎のエースを食ってやろうという気骨はビシビシ伝わってきた。

 いや、ここで西武の育成を熱っぽく語りたいわけじゃない。CSファイナルへ向かう阪神の調整ぶりを書くために宮崎まで飛んできた。この日、L-Tの試合会場は西武キャンプ地の南郷町…。昔からよく知る土地だから馴染みの隣町に顔を出してからゲームを見させてもらった。

 4位、5位、2位、4位、5位…最近5年で4度のBクラス。朝から立ち寄ったのは、低迷期の中にいるカープのキャンプ地・日南市である。

 フェニックス・リーグで若鯉を指導するファーム打撃コーチの新井良太に聞きたいことがあった。兄であり、監督の新井貴浩がシーズン最終戦の挨拶で発した、あの発言について…。

 「監督の言葉ですか?言わずもがなですよね…。僕もそうですし、コーチの人たちもみんな危機感を感じていると思います。使命感というか、現場はこのままじゃダメだって思っていますから…。今いる選手をなんとか一人前にすることを考えてやっていますよ」

 良太はもちろんファンの気持ちを重々承知している。若い芽を育て、花を咲かせ、現状を打破したい。日南では文字通り朝から晩まで…夕食後の夜間練習にも付き合い、早朝に備えて夜は10時前に眠ってしまう日々だという。

 「変わろうとするとき、また新しい力が生まれるとき、必ず苦しみが生じます。来年以降もこの苦しみは続いていくと思います」-。

 これが、その兄の発言。スタンドからは罵声も飛んだようだが、阪神指揮官の藤川球児はだからこそ新井カープの巻き返しを警戒している。

 良太は言う。

 「日南で口酸っぱく言っているのは意識付け。例えば1死、一、三塁…」

 興味の尽きない良太との会話をまた次回書きたい。=敬称略=

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