東北福祉大の「勝負強さ」

 【6月15日】

 4年生の金本知憲が明治神宮野球場のライトで拳を握った。レフトから駆け寄った同級生の佐藤茂徳とギュッと抱き合うと、駆け寄ったVナインの輪が歓喜のあまりマウンドで崩れた。

 仙台で2-2の延長戦を眺めながら思い出した。全日本大学野球選手権で東北福祉大が初めて日本一に輝いたのは91年。早いもので、あれから34年が経った。この日、金本、中野拓夢の後輩たちが神宮で7年ぶり4度目の日本一を勝ち取った。初戦、2回戦を見させてもらったが、今年の福祉大は勝負強かった。青学大の大会3連覇を阻んだ前日の準決勝でも、とにかく得点圏での猛打が光った。おめでとう…。

 冒頭に書いたセピア色の優勝シーンは仙台で金本の仲間たちから聞いて再現したものだが、あのゲームは壮絶だった。関西大との決勝戦は2-2のまま膠着し、決着したのは延長17回。東北福祉大に巡った1死二、三塁のチャンスでそこまで6打数ノーヒットの3番打者が打席へ向かうと、関大高木貴が投じた204球目に食らいついた。打球は前進守備の二塁手を越えてセンターで弾んだ。7打席目の執念で決勝タイムリー。ヒーローは金本だった。

 左腕高木に苦しむ金本を見て指揮官の伊藤義博は「代打」も頭によぎったというが、最後は努力家の勝負強さを信じ、仙台に優勝旗を持ち帰った。

 2-2のまま膠着したゲームは延長十二回に決した。こちら、阪神の連敗が止まらなかった楽天モバイルパークである。ラストシーンは1死一、三塁。代打黒川史陽に食らった打球に前進守備の二塁手が飛びついてバックホームしたが、間に合わなかった。

 泥だらけの中野が唇をかんだ。

 それでも大学4年間を仙台で過ごした彼の執念は随所で見られた。延長十一回の守りでは、鈴木大地に浴びたライトへ抜けようかという打球に球際の執念を見せてダイビング。福祉大の負けん気が仙台で光ったのがうれしい。 試合後、楽天監督の三木肇は「最後は代打黒川の勝負強さにかけた」と振り返ったが、前日3安打、この日も2安打を放っていた中島大輔に代えた十二回の用兵はなんとも憎らしかった。

 中野ら東北福祉大OBが母校の日本一を喜んだこの日、阪神の勝負強さはここぞで発揮されなかった。惜しむらくは延長十一回である。佐藤輝明のセンターへの大飛球が二塁打になって、得点圏で大山悠輔に託したかった。

 23年シーズン=①大山(22本)②佐藤輝(20本)③近本(17本)

 24年シーズン=①大山(24本)②森下(23本)③佐藤輝(22本)

 これは最近2シーズンの阪神打者の殊勲打の本数である。これを見て思い出すのは、阪神第33代監督の言葉だ。 「マスコミは単に得点圏打率の高さを好打者の指標にしがちだけど、大事なのは中身。試合が決まった後の得点圏で数多く打つのと、ここぞの場面の得点圏で打つのは意味合いが違う」

 もちろん、後者になってほしい。

 6タコからの日本一決定打…アニキの勝負強さが磨かれた仙台で思う。=敬称略=

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