近本が語るトントントン
【6月8日】
近本光司は2種類のリズムでテーブルをたたいた。
トン、トン、トン…
次に、
トントントン…
通算1001本目のヒットは高めの直球をセンターへ。2ストライクからボール球を仕留めた背番号5のスイングを見て、あの言葉を思い出した。
「僕らバッターというのは、自分のリズムではなく、ピッチャーに合わせなきゃいけないんですよ。自分のタイミングでこう(トン、トン、トン)やっているのに、ピッチャーがこういうタイミング(トントントン)だったらタイミングが合ってないってことじゃないですか」
この発言は1月の沖永良部島。自主トレの後に取材時間を作ってくれた近本は、僕にもよく分かるようにバッティングの肝について語った。島内の長閑な施設を束の間お借りして木造のテーブルを左手でトン、トンと…。
タイミングさえ合わせられれば…近本はよくそんな趣旨を語る。しかし、それが簡単ではないからバッティングは難しいし、奥が深い。その深い奥の扉を開けるためのアプローチは一流でも十人十色。近本のその色を少しでも知れれば…そんな思いで鹿児島の離島へお邪魔したわけだが、ふだん見ることのないアプローチが目についた。
フリー打撃の前、ティーをたたく風情でトス役のボールを待った。しかし、バットは振らない。ヘッド側の先端にコツン、また、コツン…。これを何度も繰り返すのだ。試合で絶対にバットのそこに当てることのないポイントだから目的を知りたくなった。
「基本的にあれをやる目的は2つあるんですよ。1つはタイミング。ピッチャーのタイミングに対して自分も合わせにいかなきゃいけない。合わせるための最初のエクササイズとしてあれを取り入れていて…。ボールとの間合いというところで合わせるんです」
理解が及ばないが興味は尽きない。
あれから5カ月。前日1000安打を通過した近本が「すごく大事にしたい」と語っていた1001本目は4打席目に生まれた。第2、第3打席とも珍しく3球三振を喫したが、最後に1本出してこれが輝の満塁弾を呼んだのだから価値は高い。ただ、僕が気になっていたのは「調子が良くなかった」という直近のコメント。だから、この日、本人に聞いてみた。思わしくなかったのはタイミングの取り方か。
「いえ、タイミングはずっと悪くなかったです。それは良かったんですけど、試合以外のところでの、そもそもの自分の状態というのが良くなかったんです。試合での…というより、そもそもの打ち方というところですね」
近本にとって打の悩みが100%解消されることなどないだろう。でも、僕が勝手に安心したのはタイミングが崩れていないということ。だから、4打席目も追い込まれてからゾーンを広げて難なく打った(ように見えた)。
そうそう、前述の沖永良部で聞いた「あれをやる2つ目の目的」はまた近いうちに書こうと思う。=敬称略=
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