体に染みこませるもの

 【1月11日】

 昭和演歌の女王、八代亜紀が亡くなった。1980年に日本レコード大賞を受賞した『雨の慕情』といえば、歌詞の一節を完璧に歌えるほど当時小学生だった僕にとっても忘れられない旋律だ。

 雨々 ふれふれ もっとふれ♪

 私のいい人つれて来い♪

 幼いころは理解できなかった、せつない恋歌である。

 概して人間は、雨が降る日は、自分の気持ちと向き合う時間が増えるもの。きっとあの人も、雨が降れば、同じように、私のことを思い出してくれるはず。雨よ、もっと、もっと、降っておくれ…。

 これぞ染みいる昭和節!なんて名曲を想いながら、大阪の冷たい雨に打たれたこの日である。

 「お疲れさまでした!」

 球場のエントランスで糸原健斗の車が発つのを待ってお辞儀する大山悠輔と小野寺暖を眺めながら「こういうの、ええなぁ…」と、昭和生まれは感じてしまうのだ。

 大阪府内の球場で公開された3選手の合同自主トレは途中から生憎の雨模様になったけれど、大勢のカメラマンがびしょ濡れになりながらその「初打ち」を収めた。

 スタッフの一人が「これだけ大勢の記者が来られるのは日本一になったからですか?」と目を丸くしていたが、いや、これが虎の通常営業。このメンツが自主トレをやれば、メディアは毎年集まる。

 「普段の生活からやれることは沢さんあると思うので…」

 大山は連覇へ向けそう語った。

 日本一になった。不動の4番を担った。この世界で大きな顔をできる選手になったわけだけど、細やかな先輩への礼儀、挨拶は一時も怠らない。昭和っぽい所作に僕は何時も感心させられる。演歌の恋心とこじつけるわけじゃないけれど、雨を呼ばなくとも、人に恵まれ、いい人を呼ぶ所以だろう。

 さて、野暮な問いかけと分かりつつ、テレビインタビュー、囲み取材を終えた大山に聞いてみた。

 「バラ色」と言われるオフから新シーズンへの切り替えに時間を要さなかったのか?新しい年へ向けた「やるぞスイッチ」は早い段階から入ったのかどうか?

 「それはもう入りましたね。続けないといけないと思っていましたし、よし来年も…という気持ちにはすぐなりました。ただ、オンとオフという意味では、優勝の余韻に浸ることも大事だと思いましたし、優勝したんだということを自分に言い聞かせないといけない…。パレードで一番そう感じたんですけど、優勝したらこれだけ周りの人に喜んでもらえるんだというのも自分の中で体に染みこませないといけないという思いもあったので。続けなくちゃいけないという危機感もありつつ、優勝できたという達成感もあって…」

 雨の大阪自主トレ初日である。 3選手の白い息を眺める。屋外で初めて架けた白い軌道を追う。糸原、小野寺とともに雨空を見上げながら自分の気持ちと向き合う時間が増えたかどうか。人に恵まれた大山悠輔が今年も元気にスタートを切った。それだけ拝めれば十分である。=敬称略=

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