怒らない新井のこわさ
【9月8日】
旧知のカープの面々が、僕とすれ違うたびに言う。
「阪神、強いですね…」
試合前のことだ。もちろん、冷やかしでも何でもない。心底の感情が漏れているのだと思う。
とはいえ、ここまでV戦線に食らいついてきた新井カープが音を上げるとは思えない。可能性がある限り、ファイティングポーズを崩さないだろうし、こちら側からすれば、Mが「10」になってもまだ気を抜けない相手である。
「当然ですけど、やっぱり気になってましたよ。いつも、ケータイで(速報を)見たら『あ、また阪神勝ってる…』って。『強いな…』って」
カープヘッドコーチの藤井彰人は僕にそう話していた。昨年まで阪神のバッテリーコーチを担った藤井は、今年から新井の名参謀として尽力する男だ。捕手目線で野球をよく知っている。その柔らかい人柄で、ときに癒やし役にもなる。が、もちろん勝負事には厳しいし、逆にこういう人間を怒らせたら怖い。新井もそうだろう。
「まったく怒らないですよ」
これはカープの球団広報から聞いた〈新井評〉である。
いや、いくら温厚な新井だって長いシーズン、怒りに満ちあふれる日だってあったでしょ?
「全くないです。監督に聞いたら、『怒ったり、叱ったりする理由がないだろ?選手たちはみんなしっかりやっているんだから』って仰るんですよ」
仏(ほとけ)の新井か…。
もともと新井は「選手のミス」を咎めることは「ない」という。ということは、叱るとすれば、態度や取り組み…なのだろうけど、今のところ「全く怒らない」ということは、それがきっちりできている選手ばかりだということ。もし、そうであれば、このチームの選手たちは必ず力がついてくる。総合力が上がってくる。それが、この秋なのか、来年なのかは分からないけれど…。
この日、新井と話す機会があった。監督新井が「敵ながら」称賛する阪神の選手がいる。
大山悠輔である。
「彼は、今年一度も4番を外れていないですよね?」
この続きはまたどこかで書きたいが、何と言えばいいのか…昔、当欄で触れたことがあるのだが、新井と大山って何となく醸し出す雰囲気が似ているように思う。
温厚で、ひたむきで、ふだんはまず感情を乱さない。でも、こういう男ほど、怒らせたら、きっと周囲が凍りつくほどこわい。
岡田彰布が大山を一度も4番から外さない理由は「周りがそう認めているから」である。物静かな迫力。敵にとっても味方にとっても、これほどこわいものはない。
事実上雌雄を決する首位攻防で阪神不動の4番が4点目のタイムリーを左翼線へ運んだ。これで勝負あり。三塁ベンチから見ていた新井は表情を変えなかった。
怒らない新井のこわさはまだ侮れない。けれど、きっと新井は惑わない阪神の4番のこわさを感じているはずである。=敬称略=
