日常生活のような…

 【7月7日】

 松坂大輔が今季限りでの引退を表明した。スポーツ界に限らず、各界から労いの言葉が溢れたこの日、僕はある男に連絡をとってみた。「松坂世代」の中でまだ〈現役〉を続ける投手である。

 「思い出といえば、一番は高校時代に甲子園で対戦したときの話ですかね…」

 松坂世代最後の大物といわれた久保康友である。

 当欄で何度か書いたけれど、久保とは家族ぐるみの付き合いがあり、実は、この日も家族の一人がご自宅にお邪魔していた。「松坂引退」の報を受け、お世話になったお礼も兼ねて(?)束の間、思い出話を聞かせてもらった。

 「センバツで対戦したときのエピソードでいいですかね」 

 98年、横浜対関大一のセンバツ決勝戦を…久保がそういうので、ぜひ、教えてほしいと伝えた。

 「あの試合、ちょっと雨が降っていたんですよ。大輔は僕みたいな選手なんて相手にならない怪物でしょ。だから、考えたんです。どうやって崩してやろうか、どうやって集中力を切らしてやろうかと。で、イニング間でマウンドを交代するときに、雨、土で汚れないようにロジンバッグを手渡す際に話し掛けたんですよ。『暑いよな』とか、『ナイスピッチングやな』とか。でも、ダメでした」

 ほう…。

 「試合に入り込んでいるヤツは動揺させると、自分をコントロールできなくなることがあるんですけど、大輔は、極端にいえば、あんな大舞台でも普通…。日常生活をやっているような感じでした」

 甲子園決勝のマウンドで?

 「いい選手でも潰せる選手はいた。でも大輔はスキがなかった。野球の技術で無理ならと色々考えたんですけど、その芽すら摘まれました。余裕が違う。これはダメだ、こいつにはかなわないな…と感じました。もう20年前の話だから向こうは覚えてないでしょうけど、僕は仕掛けたほうだから、すごく記憶にあるんですよ」

 最高の舞台で戦った男だけが知る松坂の凄みがそれである。

 メキシコでプレーするなど、海外での現役続行を視野に入れる久保は「引退」を表明していない。サンテレビの解説もこなし、阪神戦に触れる機会が多い彼に「令和の怪物」についても聞いてみた。

 「投手目線でいうと、佐藤くんは気持ち悪い打者です。ズレている箇所で打っているのにフェンスをこえる。投手の勝ちと思っているのにスタンドインしますから。投手からすれば読みも外しているし、打ち損じさせているのにスタンドまで持っていかれる。オッケー、外野フライ!思った打球がスタンドに入る」

 確かに、この夜、輝が神宮の右翼席へ運んだ20号も完璧に振り抜いた打球じゃなかった。

 「あんなふうに飛ばせる、その正体が分からないのが、また気持ち悪いんです」

 「平成の怪物」を肌で知る男が佐藤輝明を「令和の怪物」に認定するのだ。=敬称略=

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