反骨心、芽生えますか?

 【6月2日】

 出てこい、出てこい…と念じながら見ていたら出てきてくれた。オリックスの背番号26、能見篤史である。三塁側のブルペンから登場すると、かつてのホーム、甲子園は彼を温かく出迎えた。

 阪神1点リードで迎えた六回である。空振り三振にこだわってきた左腕が、かつての自主トレ仲間梅野隆太郎をインローのスライダーで空振り三振、そして、糸井嘉男にはアウトローのスライダーで空振り三振を奪った。

 J・サンズ、佐藤輝明の連打で能見を攻め立て、追加点のチャンスを得ながら後続が絶たれた-主語が行ったり来たりする拙い文章を書いているけれど、どっちにも肩入れしたい妙な感覚は、ロッテ戦の鳥谷以上だったように思う。

 入場制限で空席が目立つスタンドで背番号14のボードを掲げ手をたたく虎党…。拮抗する展開でも両軍ファンが一つになってマウンドを見つめた時間になった。

 現地観戦した虎党、そして、テレビやネットで視聴した虎党は、どんな感情で「能見対阪神打線」を見守ったのだろうか…。

 能見と阪神ファンを思うとき、ふと思い出すことがある。

 オリックス移籍が決まった昨オフのことだ。MBSのバラエティー番組で鳥谷敬と共演した能見は阪神ファンに一つお願いをした。

 番組の中でいくつかの質問に○×で答えるコーナーがあったのだが、その中で次のような質問が…

 Q 阪神ファンは最高だ?

 鳥谷はこれに○をつけたが、能見は○と×を両方つけた。

 阪神打線が相手投手をKOしたときスタンド全体で合唱する「蛍の光」について…「できればやめてほしい」と能見は語った。

 「味方も敵も、両方、いい気はまずしないので…」

 スタンドでのマナー、主に自軍へのヤジについて、かつて能見から聞いたことがあった。

 「風さん、普通に考えてみてください。ヤジられて気分良い選手っていると思いますか?それで反骨心って芽生えますか?選手は生身の人間ですから、突き刺さりますよ。ヨシとする人も?いやぁ、いるかもしれないけど、全員がそうじゃないです。それをマスコミが美化するのも違うと思いますしね。イヤなものはイヤですし、傷つくものは傷つきますから…」

 誤解のないよう書かなければいけない。本人に聞いてきたので分かるけれど、能見は阪神ファンへの感謝、恩義を人一倍、感じている選手である。だからこそ、あれは阪神を離れる際に能見がファンへ遺した手紙だったように思う。

 「今年は『蛍の光』を、僕が流される可能性がありますよね…」

 そう言って苦笑していた能見である。

 コロナ禍で歓声や合唱がすべてNG…応援スタイルは昨年から様変わりした。能見が強力打線に追加点を許さなかった夜、「蛍-」はもちろん鳴らない。拍手は嬉しかっただろうし、生涯忘れることはないと思う。「おかえり」が確かに聞こえたホームの風…かつての庭が心地よかった。=敬称略=

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