5打席、全て初球

 【9月6日】

 昨年、カープ新井貴浩に「2000安打達成」のお祝いを贈らせてもらった。「あ、そう言えば…」と、改めて本人からお礼を言われて思い出した。あらかじめ、お酒を贈ろうと決めていたのだが、あのとき、銘柄を迷いに迷った。

 おそらく各所から何本も届くはずだ。なるべくかぶらないほうがいい…などと家族と相談し、決めたのが「獺祭(だっさい)磨き二割三分」という日本酒だった。味は間違いないし、喜んでくれるだろう。住所を書き、発送しかけてから、「ハッ」となった。

 二割三分。このお酒は現役を引退してからのほうがいいか…。思い直して、違う銘柄を贈ることにした。気にならない人は全く気にならないかもしれない。けれど、もし翌年、打率・230に届かないくらい低迷してしまったら…。 そんな気遣いをしてはみたけれど、ここまで3割近く打っているので要らぬ心配だったような…。

 記録を見ると、新井が打率・230を下回ったことは過去18シーズンで実は一度だけある。ルーキーイヤーの1999年。53試合の出場で、95打数21安打、打率・221でプロ1年目を終えていた。

 期待外のドラフト6位入団が名球会入り…。夢のある男だ。その新井が「いいなぁ」と、才能を楽しみにする虎の新人がいる。

 大山悠輔である。

 「あれはいつだったかな。この球場(マツダスタジアム)で彼のバッティングを初めて見たんですけど、すごくいいフォームで打っているなと思いました。軸がブレないし、バットの扱い方も上手いし…。僕が1年目のときなんて、何もなかった。ただ振っているだけでしたけど、彼の場合、既に自分のものを持っている感じがします。将来楽しみな選手が阪神に入ったなって思いましたよ」

 新井は初見の大山をそんなふうに語った。ドラフト順位は大きく違えど、大卒で同じ右のスラッガー。古巣の後輩でもあるし、やはり、気にはなる存在なのだろう。

 大山がまだ1本も本塁打を打っていなかった6月、当コラムで書いた。新井は新人当時、全く期待されていなかったけれど、実は本塁打を7本打っていた。果たして大山は7本打てるだろうか-と。

 僕はルーキーイヤーの新井を知っている。技術やパワーの比較は分からない。でも、ひとつ言えること…それは、新井が言うように大山は既に「自分のもの」を持っているように感じる。ガムシャラが取り柄だった新井にはなかったもの…技術というより、彼なりの信念があるように見える。そうでなければ、この夜のように5打席全て「初球をフルスイング」なんてできない。出場410試合目(5年目)で初めて4番を任された新井と、出場51試合目で4番に座った大山。初本塁打から2カ月で6本塁打を打った22歳が7号を放つのは、もう時間の問題だろう。

 新井は言う。

 「はっきり言っておきますけど僕の一年目なんかより、大山くんのほうがはるかに上ですからね」

=敬称略=

関連ニュース

編集者のオススメ記事

吉田風取材ノート最新ニュース

もっとみる

    スコア速報

    主要ニュース

    ランキング(タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス