アメリカ人が見た日本プロ野球 舞台裏から浮かび上がるNPBの独自性 「大戦前夜のベーブルース」著者が関係者直撃

 著者のフィッツ氏(左)と筆者
2枚

 今年はドジャースが日本人3選手の大活躍に支えられてワールドシリーズ連覇を果たした。中でも魂の連投でMVPに輝いた山本由伸はアメリカ中に絶賛された。そして来年、新たに村上宗隆、岡本和真らがメジャーリーグに挑戦する。大谷翔平をはじめ素晴らしい選手を排出している日本プロ野球は、アメリカ人の目にどう映っているだろうか。

 11月、アメリカで「In the Japanese Ballpark: Behind the Scenes of Nippon Professional Baseball」(訳=日本の球場で『日本プロ野球の舞台裏』になります)という書籍が発売された。この本の面白いところは、選手にはほとんど触れずに日本プロ野球の仕組みを様々な角度から描いていること。関係者26人への取材を通して〝日本にしかない野球〟を丁寧に英語でまとめている。取材対象はアメリカ人10名、日本人16名。読者にとってはちょうど良いバランスだ。

 内容は5つの分野に分かれている。フィールド上(選手、監督、審判など)、スタンド(ファン、応援団、売り子など)、クラブハウス(データアナリスト、通訳など)、フロント(GM、オーナーなど)、ビジネス(マーケティング、代理人など)。非常に濃い内容でありながら文章は読みやすく、英語が得意ではない方が挑戦しても新しい視点が出てくると思う。

 著者のRobert K. Fitts氏(以下、フィッツ)は生まれも育ちもアメリカで、日本語はほとんど話せないが、日本の野球史には非常に詳しい。彼は新作を含めて日本と野球を結ぶ書籍を11冊も執筆。その中で筆者のお気に入りは、日本プロ野球草創期の日米ツアーが詳しく描かれている「Banzai Babe Ruth」。野球だけではなく、当時の政治的風土にも触れられている。彼が書いた中で唯一和訳された書籍でもあり、タイトルは「大戦前夜のベーブルース」。機会があったら、ぜひ読んでほしい傑作です。

 新作は、この傑作をも上回っている。執筆に至ったキッカケは、2年ほど前の夏。来日してMazda Zoom Zoomスタジアムで試合観戦していた同氏は、スタンドでビール樽を背負っている売り子さんを発見。「暑くて大変そう!あの樽、何キロあるだろう?お給料気になる。アメリカでこういう仕組みはないけど、あればみんな喜ぶだろうなぁ」との思いが頭を巡ったという。さらにライトスタンドの応援光景にも驚いた。

 「日本の野球はアメリカの野球と異なる側面が多い。アメリカ中の野球ファンに日本のユニークな部分を紹介できたら喜んでもらえるはず」。

 そうひらめいたフィッツ氏は2023年末から半年ほどをかけて数多くの取材を敢行。取材対象の中には、日本語でのやり取りを希望した人物が複数おり、筆者は通訳を依頼された。スポーツ通訳を研究している私にとっては最高の機会。7人の取材現場で通訳をしながら、たくさんの情報をいち早くゲットし、たくさんの新しい関係もできた。通訳スキルを磨くチャンスにもなった。

 筆者は大学で講師をしていることもあって、学生にこの本を勧めたいと考えている。英語の勉強になる上に、26人の経験豊富な野球関係者の職業を知ることは、就職活動を進める中でも参考になるはず。主にアメリカで販売されているので個人での購入は少し難しいかもしれないけど、全国の大学に1冊ずつでも配架してほしい。いや、大学の図書館だけではなく、公の図書館にもぜひ取り入れてほしいと願っています!

 ◆トレバー・レイチュラ 1975年6月生まれ。カナダ・マニトバ州出身。関西の大学で英語講師を務める。1998年に初来日、沖縄に11年在住、北海道に1年在住した。兵庫には2011年から在住。阪神ファンが高じて、英語サイト「Hanshin Tigers English News」で阪神情報を配信中。

関連ニュース

編集者のオススメ記事

トレバーの虎場最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(阪神タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス