道端でふらついていた小さな子猫 臆病な心を変えたのは妹猫だった 家族の愛に寄り添われ迎えた5歳の今
今から5年前の猛暑日の夕暮れ。インスタグラマー・なちゅふぉとさん(@nachi_photo)の長男さんが、自宅近くを歩いていたときのことでした。視界の隅でゆれる黒い影に気づき、そっと近づくと、そこには衰弱した幼い黒猫の姿がありました。のちに「ジジ」ちゃんと名づけられるその子は、体を支えるのもやっとで、ふらついた足取りを繰り返していたといいます。
■逃げる力も無かった… 激しく衰弱した子猫
ジジちゃんのそばには、母猫も兄妹もおらず、ひとりぼっちでした。弱り切ったその姿に胸が締めつけられた長男さんは、迷わず保護を決めたといいます。
「逃げることもままならないほど弱っていて、すぐに保護することができたと聞きました。長男は、ちょうど猫と暮らすことができるマンションに住んでいましたが、夜鳴きが激しかったため、翌日ジジをうちに連れてきたんです」
ジジちゃんは、生後わずか1カ月半から2カ月ほど、女の子であることがわかりました。保護当時、体には過酷な環境で生きてきた痕跡がいたるところに残っていたといいます。
「ご飯は食べてくれましたが、ダニやノミだらけ。汚れていたので洗うと30匹以上浮き出ました。目やにや鼻水は、洗っても拭いても間に合わないほど。とても怖がりな性格で、何もかも怖がってすぐ隠れていました。後に瓜実条虫もみつかるほどひどい健康状態だったんです」
どれほど心細い毎日を過ごしてきたのか…想像すると胸が締めつけられます。それでも、ご飯を食べ、眠り、家族のそばに身を寄せようとしたジジちゃん。その姿は、必死に生きようとする小さな命そのものでした。
■何もかも怖がるジジちゃんーー“新たな風”で変化が
新しい環境に身を置いたジジちゃんは、とても慎重で、物音がすれば隠れ、人が近づくだけで身を縮めてしまうほどでした。家族は「焦らず、ゆっくり」を合言葉に、ジジちゃんのペースに合わせて寄り添い続けたといいます。
「我が家にやって来てから今まで、ずっと怖がりのままです。今でも私たちを怖がることがあります。それでも少しずつ慣れてくれていると感じる瞬間もあるので、そっと見守っているんです」
そんなジジちゃんの世界を大きく変えたのが、偶然、保護して迎え入れることになった子猫「ルナ」ちゃんでした。当初、飼い主さんは「ジジは怖がって受け入れるのは難しいだろう」と覚悟していたといいます。それほど、ふたりの距離が縮まるまでには時間がかかりました。
「毎晩ふたりを会わせて、3カ月ほどは『シャーシャー』が続きました。ところがある日、布団の中にジジが入ると、そのあとを追ってルナも入っていって…大喧嘩になるだろうと思ったのですが、布団をめくって見ると、すっかり仲良くなっていたんです」
それをきっかけに、ジジちゃんはどんどん心を開き、変わっていったといいます。
「ずっと使われないままだったキャットタワーを使ってくれるようになったり、自宅の1階で営んでいるお店にも来るようになったり。棚やタンスの上など、高い所に上がる姿も見られるようになりました」
ルナちゃんと一緒に過ごすことで、ジジちゃんができることは少しずつ増えていきました。それと同時に、これまで見えなかった一面も見られるようになったといいます。
「ジジは、ひとりで静かにしているのが好きで、怖がりだけれど寂しがりやでもあります。遠慮や我慢しがちなところもあります。ご飯を一緒に食べていても、ルナが横取りしようとすると食べるのをやめてルナに譲ってしまうんです。また、遊びたいのに我慢して、ルナが遊ぶ様子を一歩引いて見ていたり、ルナの行動を離れたところからずっと見ていたり…その姿が、まるでルナに危険がないか見守っているように見えることもあります」
■「もっと甘えていいよ」 愛情を注ぎともに過ごした5年
ジジちゃんは現在5歳になりました。今では家族のそばでおだやかに過ごす時間が増え、ルナちゃんと寄り添って一緒に過ごす姿も日常の一部になっています。かつての心細い姿を知る家族にとって、その変化は何よりの喜びです。
「我が家に来た当時は、とても不安で怖かっただろうと思います。それでも、少しずつ私たちに心を開いてくれて嬉しかったです。遠慮がちなので、もっと自分を出してほしい。もっと甘えてほしい。細くて小さいので、もっとたくさん食べて、ずっと健康で元気でいてほしいです」
小さな体で必死に生き抜き、慎重ながらも少しずつ信頼を積み重ね、家族の温もりの中で新しい世界を見つけてきたジジちゃん。その姿には、そっと寄り添ってくれるような静かな強さがあります。
これからも、安心できる家族のそばで、たくさんの幸せが積み重なりますように─。ジジちゃんの物語は、今も静かに続いています。
(まいどなニュース特約・梨木 香奈)





