譲渡対象外の高齢者と、譲渡先が見つからないシニア猫をマッチング 人も猫も幸せになれる仕組み「終生預かり制度」とは
「終生預かり制度 第1号!バルくん」とインスタグラムに投稿された画像には、白猫のバル君をやさしく抱き寄せるおばあちゃんの姿。
猫が大好きなおばあちゃんと、人が大好きな高齢の保護猫・バル君--。素敵なマッチングをサポートした取り組みに「素晴らしい制度!」と称賛の声が相次ぎ、1万件超の“いいね”が押されています。
投稿主は大分県日田市で保護猫活動を行う「ひたねこLink_heart(@house_olive00)」のyukaさん。おばあちゃんとバル君をつないだ終生預かり制度について話を伺いました。
■高齢者も高齢猫も幸せになる制度
--終生預かり制度の仕組みを教えてください。
「譲渡条件からは外れてしまう高齢者と、なかなか譲渡につながらず保護部屋を卒業できない高齢猫をつなぐ制度です。一般的な譲渡と違うのは、里親さんが猫のお世話をできなくなったときは、私たちが責任を持って猫を引き取るということ。これによって高齢の里親さんも、猫の行く末を心配せず一緒に暮らせます。私たちも保護猫を預かっていただくことで、空いたスペースにもう1匹、行き場を失くした猫を迎えられます」
--人も猫も幸せになる制度ですね。
「そうですね。猫の寿命は15年~20年ほどあるので、若い猫を高齢の方が迎えると、最後までお世話するのが難しいことがあります。実際に、高齢の飼い主さんが施設に入ったり、入院するなどして、飼っていた猫の行き場がなくなる事例は少なくありません。私たちの団体も、最後まで責任を持って飼っていただく『終身飼育』を譲渡の条件にしているので、これまで高齢者には猫を譲渡できませんでした」
--でも、この制度なら高齢者も猫を迎えられる。さらに、譲渡する猫も高齢の子なのですよね?
「保護された高齢猫は新しい家族がなかなか見つからず、保護部屋を卒業するのが難しいのです。そうすると保護部屋に空きができず、新たな保護ができない状況になります。そこで、猫を飼いたい高齢者と、新しい家族を見つけたい高齢猫をつなぐシステムとして、終生預かり制度を始めました」
--高齢者と猫のマッチングはどのようにされていますか?
「預かってくださる方とお話しをして、ご希望を伺います。猫の見た目や性格の好みを聞いた上で、ライフスタイルや生活環境に合いそうな子を選んでお見合いをしています」
■おばあちゃんもバル君も表情イキイキ!
--投稿されていたおばあちゃんとバル君が、第1号の終生預かりなのだとか。
「おばあちゃんとは譲渡会で出合いました。譲渡はできないけれど…と終生預かり制度の話をすると『ぜひお願いしたい』とのことで、自宅訪問をさせていただきました」
「ずっと猫と暮らしてきたそうで、猫がいない生活は寂しくてハリがないとおっしゃっていて。猫のこともよくわかっていらっしゃるし、何より私たちの話を真剣に聞いてくれ、猫目線での幸せを優先して考えてくれる方だったので、すぐにトライアルに進むことになりました」
--元気で優しいおばあちゃんなのですね。
「85歳ですが、元気でしゃきしゃきしていて口も立つおばあちゃんです(笑)。あまり模様のない猫がいいということで、こちらで性格も含めて合いそうな子を3匹選び、お家に連れて行きました。その中の1匹がバル君です。すぐにおばあちゃんの膝に乗ってスリスリしたバル君を一目で気に入り、『これから一緒に暮らそうね』と嬉しそうにバル君を抱きしめてくれました」
--トライアルは順調に進みましたか?
「はい。おばあちゃんが、バル君の食べているフードや、使っているトイレの砂などを熱心にメモして、必要なものをすぐにそろえてくれました。一人暮らしなのですが、離れて暮らしている子どもさんやお孫さんが来てくれて、ケージの組み立てや、脱走防止の二重ドアを作るのも手伝ってくれたそうです。おばあちゃんの、『バル君は大きいから、フード入れが少し低すぎるかな…』『トイレはここでいいかな?』など、バル君を思いやっての言葉がとても心に残っています」
--バル君はどんな子なのですか?
「10歳前後で、保護部屋ではいつもボランティアさんの膝に乗って甘えていた子です。人が大好きだけど、たくさんの猫がいる中で、私たちも十分に構ってあげることができなくて…。でも、おばあちゃんの家では、いつもそばにいられて、バル君だけを大切に可愛がってもらえます。2週間のトライアルを経て、娘さんに保証人として同席していただき、終生預かり契約を交わしましたが、おばあちゃんと暮らし始めてからのバル君の顔がイキイキしていることに、感動と感謝でいっぱいになりました」
--おばあちゃんもバル君との暮らしを楽しんでおられますか?
「それまでは遅くに起きて、起きてもテレビを見て過ごすだけだったそうですが、今はバル君のために朝起きてご飯を用意して、掃除をして…という毎日。それが楽しくてたまらないと言ってくださいます。何もない1日でも、バル君と一緒にいて、話しかけるだけで元気になるそう。『もうバル君に振り回される毎日よ』と、憎まれ口を嬉しそうに話してくださいますね(笑)」
現在3つのシェルターで89匹、7件の預かりボランティア宅にて21匹と、計110匹の猫を保護している「ひたねこLink_heart」。1匹でも多くの猫を救うために、終生預かり制度第2号のトライアルも進行中です。
「家族と疎遠だったり、認知機能が低下している高齢者もいらっしゃって、終生預かり制度を進めるには一人ひとりに合わせたルール作りや話し合いの必要があるなと感じています。まだ始まったばかりの制度で手探りではありますが、人も猫も幸せになれる日田市を目指してがんばっていきます」(yukaさん)
(まいどなニュース特約・鶴野 浩己)





