首相の長男秘書官・お土産購入は“公務”ではなく“政務”…豊田真由子が解説「大使館車の利用は望ましくなかった」

「内閣総理大臣秘書官」の行動が注目されています。私は、大使館員として、また、内閣の一員として、それぞれ仕事をした経験があるということで、「実態はどうなっているのか?」と聞かれることが増えましたので、今回整理してみたいと思います。

本件には多岐に渡る論点があると思いますが、「総理が自分の子どもを秘書官にすることの是非」については、以前この連載でも詳しく検討してきました。また、同性婚をはじめとする、LGBTQの方々に対する日本政府の対応を巡る課題については、非常に重要な論点ですので、また別の機会に改めて考えたく思います。

今回の問題の基にある、政権において重要な役割を果たす「総理秘書官」について明らかにするとともに、本来分けるべき「公務」「政務」「私用」の区別、知られざる現地日本大使館の仕事などについて、(守秘義務に抵触しない範囲で)ご説明したいと思います。

■総理秘書官の種類と職務

内閣総理大臣を補佐する「総理秘書官」の身分は、「特別職の国家公務員」(国家公務員法2条3項8号)で、定数は5人ですが、当分の間8人とするとされています(内閣官房組織令11条、同令附則5項)。

内閣総理大臣秘書官には、「政務担当秘書官」と「事務担当秘書官」の二種類があり、それぞれの役割や位置付けは、大きく異なっています。

   ◇   ◇

▽①政務担当秘書官

政務担当秘書官は、基本的に、総理との個人的な人間関係に基づき、総理自身が選びます。総理の親族や事務所のベテラン秘書、官僚OB、かつては番記者や議員経験者といったケースも見られました。

具体的にどんな仕事を行うかは、人によって異なっており、それまでの人脈や経験を生かして、総理に対してアドバイスを行ったり、総理と与野党や経済界・メディア等との重要な連絡・調整役となったりする人もいれば、(公務以外の)スケジュール調整や身の回りのお世話といった形で、総理に寄り添う役割を担う人もいます。

現在の政務秘書官は2名で、元経済産業事務次官の嶋田隆氏と、岸田総理長男の翔太郎氏です。それぞれの経歴や年齢を考えれば、嶋田氏と翔太郎氏の間で明確な役割分担があり、嶋田氏は政策のアドバイスや各界との調整役、秘書官室を取り仕切る、翔太朗氏は議員事務所との調整や身の回りのお世話、そして“後継ぎとしての修行”が求められているといえると思います。

政務秘書官には、総理が心身共に極度の緊張状態の続く中で、「決して裏切らない、仕事や精神面での支え」という役割があり、したがって、総理自身が「何をしてくれるどういう人を望むか」でお決めになれば、基本的にはそれでよいと思います。

ただし、なんであれ、公正性や透明性が高く求められるようになっている中で、その方が、総理の、そして引いては、日本国と国民のために、実際に何ができるか、ということが、重要になってくるのだろうと思います。

そして、子息を総理秘書官にした場合には、国民から向けられる目は一層厳しいものとなるというご自覚の下に、緊張感を持って職務に当たられることが求められる、ということだと思います。

   ◇   ◇

▽②事務担当秘書官

事務担当の総理秘書官は、各省庁の幹部が、政策面で総理をサポートします。現在は、財務省(2人)、経済産業省、外務省、防衛省、警察庁からの6人です。

事務秘書官は、全省庁の職務を、それぞれ分担して受け持ち、省庁からの様々な相談を受け、重要な政策や、総理の国会答弁や会見の想定問答等について、幅広く調整役となります。各省庁を説得することができる能力や信頼とともに、官邸と省庁間の重要なパイプ役となり、意思決定や実行が円滑に進むようにする力量が求められます。

事務秘書官には、それぞれの省庁のエースが送り込まれ、以前は課長級でしたが、岸田政権では、局長・審議官級となり、年次が上がっています。省庁が推薦してくることもあれば、総理自身が、以前大臣だったときに一緒に仕事をした人物を希望すること等も多いです。岸田政権では、元経産次官の嶋田政務秘書官のアドバイスも大きかったと考えられます。

事務秘書官は、基本的に総理の「公務」にのみ携わり、国会や視察先などで総理に同行する日を輪番で受け持っています。

■「公務」「政務」「私用」の区別

海外で、内閣の一員(総理、大臣、副大臣、政務官など)や国会議員団等が、①国を代表して国のために行うものが「公務」、②政治家個人として行うものが「政務」、そして、③私的な行為が「私用」です。

大使館車と大使館員を使えるのは、「公務」に限られますが、警護対象者(※1)については、24時間その身辺の安全を確保することが求められますので、常に公用車やSPが付きます。したがって、ここでは、警護対象者以外の一般の国会議員などについての、大使館車の使用や大使館員の随行について、考えます。

(※1)警護対象者 ①内閣総理大臣、②国賓、③衆参議院議長、④最高裁判所長官、⑤国務大臣、⑥公賓・公式実務訪問賓客、⑦内閣総理大臣経験者、⑧政党代表者、⑨主要国の駐日大使 等(警察法施行令13条1項の規定に基づく警護要則2条1号等)

私がジュネーブで大使館(※2)に勤務していた際は、国会議員や官庁からの出張者に関する大使館車の使用や大使館員の随行については、非常に厳格なルールがありました。

もちろん「観光」なんて論外で、議員から「飛行機の乗換地でちょっと観光したい」といったご要望があった場合も、即座にお断りしていました。私がいたのは、国際機関に対する日本政府の拠点だったので、国際会議への出席など「公務」で来る方しかおらず、国会議員が団体で「視察」に来るようなことは基本的になかったので、もしかしたら、他地域の大使館は違うのかもと思い、有名観光地の多い、欧米の大使館勤務経験者にも確認しましたが、同様に、厳格な運用をしている、ということでした。

(※2)在外公館には、①大使館、②総領事館、③政府代表部、があり、わたくしは、国際機関(+加盟国)と日本政府の外交を担当する在ジュネーブ国際機関日本政府代表部に勤務し、WHO等を担当していましたが、本稿では、便宜上「大使館」に統一しています。

■大使館車使用のルールと実態

そもそも、大使館にある公用車というのは、どこも数が限られています。

大使館で日常的に公用車を使うのは大使だけ(※セキュリティや外交活動の円滑な遂行上、大使車は必須です)で、公使以下すべての館員は、職務においても、自費で購入した車を、自分で運転して移動しています。(そのため、免許を持っていなかった私は、赴任が決まってから、急いで免許を取りました。)

そして、日本からの官庁の出張者について、空港-国際機関-宿泊場所等の送迎も、担当の大使館員が、自分の車で、自分で運転してサポートしています。大使館員は、外交官として、日々の各国との交渉や国際会議での議論、本国への報告といった実務(サブ)を行うことに加え、こうした出張者のサポート業務(ロジ)も任務の一つとされていました。(限られた人員・設備と効率等を考えれば、それでいいと思います。)

大使館車は、国会議員や官庁の幹部等が現地に来たときの「公務」に使われます。空きがある場合には、その他の官庁出張者の公務に使える場合もありますが、いずれの場合も、「本国からの公電による正式な依頼」が必要とされ、運用は厳格です。

そして私は、国会議員となってから、米国、韓国、インドネシア、東ティモールに参りましたが、どの国でも、相手国の閣僚や議員との会談、国会議事堂訪問、病院や学校の視察等、本当に、最初から最後まで、分刻みの「公務」のスケジュールがびっしりで、ご一緒した他の議員の方々も、閣僚経験者含め、皆さん同じ行動をされていました。

私自身、上述したような大使館勤務時の厳格な運用という実体験があったので、当然そういうものだと思っていました。(ちなみに、議員団で行ったときは、人数が多かったので、大使館借り上げの車両で移動していました。)

一方で確かに、かなり昔には、地域によっては「国会議員の海外視察時に、観光のお供は大使館員として当然の仕事」という時代もあったそうです。したがって、その頃からずっと議員をやっておられる方や、そのご家族などは、当時の感覚のまま、という場合も、もしかしたらあるのかもしれません。

最近でも、ご一緒したテレビ番組で、元議員の方が「海外視察の一部にミュージアム見学を入れてもらった」といった話をしておられたので、「う~ん、人によって違うのかな・・」と思うこともあり、また、地方議員の方の視察で、監査請求・公表されたものなどを見ると、びっくりするような内容のものもあったりします。

なので、すべての国・地域で、すべての国会・地方議員の海外視察とそれに伴う日本大使館のサポートが、「公務」に限定した厳格な運用の下で行われているかについては、わたくしとしては、残念ながら分かりかねる、という結論になります。

ただ、原則は「公務」に限られ、大使館側としては、当然そうした前提の下で遂行したいと思っている、ということはいえると思います。

したがって、解決策としては、議員側が「観光に連れていけ」とかいう時代遅れの要求をしない(万が一、要求されても大使館側も断固として拒否する)ということを徹底すればよいと思います。(なお、海外では、どこかでごはんは食べないといけないが、自力での移動が日本のように簡単ではない、治安が悪いといったこともあり、公務帰りの食事に関しては、大使館車での移動でよいのではと思います。(もちろん、食事代は各自で負担))

■総理のお土産購入は「公務」か?

まず、「総理や閣僚が海外に行った際に、お土産を購入し閣僚など関係者に配る」というのは、以前からずっとある慣習で、(国民民主党の玉木代表もおっしゃってましたが、民主党政権のときも含め)、ずっと行われてきています。もちろん、その慣習が妥当かどうか、廃止すべきではないか、という議論は別途あると思いますが、今回に限って行われたことではない、そして、慣習上は総理としてお土産を用意しないわけにはいかなかった、ということはいえると思います。

次に、「お土産購入が、総理の政務秘書官の職務かどうか」という点については、上述した通り、政務秘書官は、人によって求められる役割に違いがあり、翔太朗氏は、政策面ではなく、総理の身の回りのお世話的な役割だと考えると、多忙を極める総理が自分で土産の購入はできませんので、その代わりに土産購入をする、というのは、政務秘書官の職務のひとつとしてあり得るとは思います。

そして、「政務秘書官の土産購入は『公務』であるか」という点については、私は、これは「公務」ではなく「政務」だと思います。「公務」というのは、国を代表して国のために行う仕事で、例えば、訪問国の大統領への総理からのお土産は、国を代表して内閣総理大臣として渡すものなので、公費で支出されます。一方、閣僚へのお土産は、国のためではなく「(内閣総理大臣という地位にある)政治家個人」として渡すものであり、だからこそ、公費ではなく、ポケットマネーで払われているのだと思います。

したがって、そうしたお土産購入に大使館車を使うことは望ましくなかった、といえるのではないかと思います。ただし、政務秘書官が総理の子息ということになれば、海外では、また別の論点として、セキュリティ上の問題が生じ得ます。(例えば、米国では、大統領の子どもを含めた家族にも、国内でもシークレット・サービスによる警護が付きます。)海外におけるリスクを考えれば、「タクシーで自分で行ってください。」は、難しかったかもしれません。(もちろん、リスクと関係なく、どなたであっても「観光」は論外です。)

では、なにが正解だったかと言われると、通常、公務員が「政務」の手伝いをするわけにはいかない、という事情もあり、本来は、大使館員や省庁から同行するロジ担当者が、お土産を購入してくるというのも、厳密に言うと難しいのですが、海外という特殊性や効率性を考えると、そうしたやり方で淡々と済ませておく、ということがよかったのかもしれません。

なお、政務秘書官が総理長男の翔太朗氏ということで、今回、話がややこしくなっている面があるわけですが、一般的に、「総理秘書官」が大使館車を使用すべきではない、ということではないと思います。例えば、過去には、元国会議員や元官僚、そして、総理の右腕と言われたベテラン秘書出身の大物政務秘書官もおられ、こうした方々が、海外に行かれた時に、それまでの人脈や経験に基づき、相手国や国際機関の関係者等と意見交換をするといったことは十分に考えられ、それは日本の国益のための「公務」として大使車を使用する、ということになります。

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長男の翔太朗氏を総理秘書官にした時点で、常に注目を浴び、厳しい視線を向けられることは想定されたことですので、世襲議員の方全般に言えることかもしれませんが、広く国民の信頼を得るために、自身の優位性を自覚し、謙虚に研鑽し、国と国民のために真摯に働いていただくことが求められると思います。

そして、国内外で深刻な課題が山積する中、国会での議論やメディアのエネルギーを、こうしたことではなく、もっと国民のためになる、重要な政策についての検討に使っていただけることが、望ましいのではないだろうかとも思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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