分類変更で「規制はどうなる?」「公費負担は?」 豊田真由子が解説、新型コロナなぜ分類変更が必要なのか?

■分類を変更すると、規制はどうなるか?

感染症は、感染症法上の分類によって、国や自治体が、国民に対して実施できる感染対策が決められており、分類が変更されると、感染症法、検疫法、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)等の、どの条文のどの内容が適用されるか、が変わってきます。

1類から3類は、入院勧告(1、2類のみ)や就業制限、「新型インフルエンザ等感染症」はそれらに加えて外出自粛要請などの行政による強権的な措置の対象となり、4類は、調査の実施や対物措置という比較的軽易な権限行使の対象であり、5類については発生動向調査などで、強権的な措置の対象とはなりません。

新型コロナが「5類」に変更された場合、「5類」を対象としていない以下の規制は行われなくなります。

①「緊急事態宣言」や「外出自粛要請」等が行えなくなる。

特措法の対象となるのは、「新型インフルエンザ等感染症」、「指定感染症」、「新感染症」

②空港や港湾で行われている検疫や隔離などの水際対策が行えなくなる。

検疫法の対象となるのは、「1類」、「新型インフルエンザ等感染症」

③入院勧告、就業制限要請などが行えなくなる。

感染症法上、入院勧告の対象となるのは、「1類」、「2類」、「新型インフルエンザ等感染症」、「新感染症」、就業制限の対象となるのは、これらに加えて「3類」

④感染者や濃厚接触者の法的な待機がなくなる。

感染症法上、これらの対象となるのは「新型インフルエンザ等感染症」

例えば、感染爆発が起こった中国からの入国者に対して水際対策を強化している中で、水際対策が行えなくなるのか、といった問題がありますが、分類変更は今すぐ行う、ということではなく、方針は決めるものの、その実施時期については、少なくとも、この第8波が落ち着き、中国からの入国者への対応含め、国民の不安が減ってから、ということにするのだと思います。

■公費負担は、なにがどうなるか?

〇医療費 

「分類が変更されると、『全額公費負担』が、『自己負担』になる」と報道されますが、それは正しくありません。新型コロナの治療費は、入院も外来も、まずは公的医療保険が適用されて、残りの自己負担部分を公費で負担しています。そして、公的医療保険の原資は、基本的に加入者等の保険料であり、それは「公費」ではありません。

私が、この点にこだわる理由は、誤った説明で、自己負担が過大に増えるという印象を与え、国民の不安を過剰に煽るおそれがあるからです。

現在、新型コロナウイルス感染症の治療に要する費用は、以下のような取扱いとなっています。

①入院の場合は、「保険診療 + 自己負担分は感染症法に基づく公費」(感染症法37条、39条)

②外来や往診の場合は、「保険診療 + 自己負担分は新型コロナ緊急包括交付金による補助」(「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養における公費負担医療の提供について」(厚労省通知))

例えば、医療費の自己負担(窓口負担)が3割の方については、7割を公的医療保険が負担し、残りの3割を、入院の場合は法律に基づき、外来の場合は補助金、という形で公費で負担しており、結果として自己負担は無い、という状況です。(なお、高所得者(市町村民税所得割の額が56万4千円超)には、月額2万円を限度として、自己負担があります。)

現在、自己負担部分を公費負担している理由は、行政が、陽性者に「感染拡大を防止するため入院勧告を行い入院してもらう」、「入院の必要のない方も自宅や療養施設で待機をしてもらう」ためです。したがって、分類を変更して、「入院勧告」「自宅・療養施設待機」の対象から外れた場合には、当然に公費負担はなくなる、ということになります。

これに関して、政府は経過措置として、当面の間は、自己負担部分の公費負担を継続し、段階を踏みながら通常の保険診療に戻す方針のようです。公費の原資は国民の税金であり、適切な使用が求められることと、激変緩和との間でバランスを取った形であるといえ、妥当だと思います。

なお、「自己負担部分の公費負担」が行われなくなった場合にも、日本には、「高額療養費制度」というものがあり、医療機関や薬局で支払った患者の自己負担の額が、ひと月ごとに定められた上限額(※年齢や収入によって異なる)を超えた場合には、その超えた金額が支給され、患者は、定められた上限額以上の負担はしないで済む、ということになっています。

<例> 69歳以下、年収約370万円~770万円の方(自己負担3割負担)が、ひと月に全体で100万円の医療費がかかった場合

・公的保険が負担する額 100万円×70%=70万円

・本来の窓口の自己負担(3割):100万円×30%=30万円

・自己負担の上限額: 80,100円+(50万円-267,000円)×1% =87,430 円

・高額療養費として支給される額: 30万円-87,430円 = 212,570円 

となり、212,570円が高額療養費として支給され、実際に患者が負担する額は87,430円になります。(100万円の医療費のうち、70万円が公的保険から、212,570円が高額療養費から支払われる。)

この例でいうと、月約9万円の医療費の自己負担というのは、もちろんそれでも負担感は非常に大きいのですが、わたくしがここで申し上げたいのは、たとえ実際にかかった医療費が月100万円でも、自己負担が約9万円で済むように、二重三重のセーフティーネットが作られています、ということで、例えば『抗コロナウイルス薬(レムデシビル)を処方された場合、一回の治療(6回投与)で薬剤費が約38万円かかり、分類が変更されたら、極めて高額の自己負担になる』といった話が散見されることに対して、「決してそんなことにはなりませんので、どうかご安心ください。」ということを、具体的にご説明したかったということです。

〇ワクチン

ここでは、ワクチンの接種の是非や継続の在り方は別として、あくまでも公費負担がどうなるか、という観点からのみ、話をします。

現在、新型コロナワクチンは、予防接種法上、疾病のまん延予防上緊急の必要がある「臨時接種」(第6条)の特例と位置付けられています。厚労大臣が指示し、都道府県の協力を得て市区町村が実施し、費用は国が全額負担するとされています。(同法附則第7条) 

新型コロナワクチンは、接種対象者、期間、使用するワクチンを指定して行われることとされており、現在の実施期間は、令和5年3月31日までとされています。(「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施について(指示)」の一部改正について(令和4年9月16日付厚生労働大臣通知))

ワクチンの予防接種法上の取扱いと、新型コロナの分類変更は、法的に直接リンクはしませんが、分類が変更されたら、「まん延予防上緊急の必要がある」という位置付けにしておくのは難しいように思います。

そうすると、①定期接種か任意接種か、②定期接種にするとしたら、まん延予防を目的とする「A類」(ポリオ等)(全額公費負担)なのか、個人の発病またはその重症化を防止する「B類」(高齢者の通常のインフルエンザ等)(一部公費負担)なのか、③定期接種の対象とする範囲(例;高齢者や基礎疾患のある者に限る)や接種間隔をどうするか、といった点について、検討する必要があります。

定期接種化する場合も、自治体の準備等が必要ですぐには無理ですので、例えば、現在の特例臨時接種を2023年度末まで1年延長し、その間は自己負担なしで接種、そして2024年度から、高齢者や基礎疾患を有する方だけを定期接種にして一部自己負担を求め、それ以外の方は、希望する場合に自己負担で接種する、といった方法が考えられると思います。

〇検査

現在、新型コロナの症状のある人や濃厚接触者など、感染の疑いがある人に、保健所や医師が必要と判断して行う「行政検査」は全額公費負担となっています。これは、行政検査が、都道府県知事が「感染症の発生を予防し、発生の動向や原因を明らかにするために」行う検査であるためです。(患者や濃厚接触者以外の、陰性証明のための検査等は、現在も自費で行われています。) 

感染症法上、行政検査の対象には5類の感染症も含まれている(感染症法15条1項、3項2号)ので、新型コロナが5類に変更された場合でも、行政検査を引き続き公費負担で行うことも可能ではあります。しかし、症状があって、薬局でキットを購入すれば自費で、医療機関に行けば無料、というのはバランスを欠きますし、同じ5類の通常のインフルエンザと同様に、症状がある場合の検査は保険診療(一部自己負担)ということが妥当ではないでしょうか。

■ウイルスはゼロにはならない

3回に分けて、分類変更について考えてきました。感染症の性質や、免疫の獲得、治療法の開発など、状況に応じて感染症の位置付けは変わりますが、何よりも、国民の心構えが大切だと思っています。分類変更は、私たちが、時間の経過とともに状況を見極めながら、新型コロナとどう付き合っていくか、の大事な一環です。

新型コロナの感染の波も、そしてまた別の新たな感染症も、何度も繰り返しやってきます。そういうものだという覚悟と(良い意味での)諦めを持ち、最新の正確な情報を基に、正しくおそれ、最悪の事態を想定しつつ、気持ちは前向きに。ウイルスはゼロにはならない、日常を取り戻し、共存していくしかない。

…3年前から、ずっと繰り返し申し上げてきました。この3年間、多くの痛み悲しみ苦しみがあり、我慢がありました。(今もあります。)亡くなられた方、後遺症に苦しむ方、経済的精神的苦境に陥った方々が大勢います。子どもの自殺や不登校も増えました。

新型コロナだけではなく、戦争や自然災害や事故や陰謀、この世界は不条理にあふれています。「その先には希望があります。」なんて軽々しくは言えません。ただいつの日か、今、絶望の淵にある方々が、前を向いて笑顔になれるときが、どうかちゃんと来ますように。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

関連ニュース

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス