5類に変更で、医療ひっ迫が改善するわけではない 豊田真由子が解説、新型コロナなぜ分類変更が必要なのか? 

新型コロナの感染症法の分類が、変更される見通しです(執筆時点は、2023年1月18日) 。前回執筆したコラム「新型コロナ、なぜ分類変更が必要なのか? 「2類」ではない現状」(まいどなニュース、2023年1月9日配信)では、「(一般的な法理論として)新興感染症の分類は、その感染症の危険性の高さ等に応じて、国民の権利・自由を制限することを定めており、したがって、状況の変化に応じて、適切に変更をしていくことが求められる。ただし、公費負担など、状況に応じた配慮も必要。」というご説明をしました。

今回の政府の方針変更について、「変更されるとこうなる」といった報道は多くなされますが、「現状がどうしてそうなっていて、どう変わったから、結果として、なにがどうなる」という、あいだの解説がすっぽり抜けています。(大変複雑なので仕方ないとは思います。)

ただそうすると、国民の側は「その変更がどういう理由で行われ、変更は妥当なものであるのか、具体的にどういう影響があるのか」といった全体像が、実は分からないままなのではないかと思います。

なんであれ、いろいろな立場や価値観があり、「すべての方が納得する政策」というのは、難しいわけですが、だからこそ、上記のような点について、できる限り掘り下げてご説明することには一定の意味があり、またそれは、厚労省で感染症法改正などに携わり、今は読者の方に発信する機会をいただいている者としての、微力ながらひとつの責務のようにも思うのです。

■なぜ、「5類」に変更されるのか?

感染症法上の分類は、その感染症の「感染力」や、罹患した場合の「重篤性」、その感染症に対する国民の免疫の獲得の程度などを総合的に評価して決められます。また、WHOのガイダンスでは、パンデミックを起こした感染症のリスクを評価する指標として、(1)感染力(伝播性)、(2)重篤性(疾病としての重症度)、(3)医療や社会経済への影響、が示されています。

新型コロナは、発生当初はウイルスの性質等がよく分からなかったこともあり、「指定感染症」とされていましたが、2021年の感染症法改正で「新型インフルエンザ等感染症」に変更されました。

「重篤性」の観点から見ると、ウイルスの性質の変化や、ワクチン接種や感染による自然免疫等によって、重症化率や致死率は低下してきており、他の感染症の致死率と比較しても、その点においては、「5類」に当てはまるといえます。

(※)2021年夏の第5波において、新型コロナウイルス感染症の日本での重症化率は、60歳未満:0.56%、6-70歳代:3.88%、80歳以上:10.21%、致死率は、60歳未満:0.08%、6-70歳代:1.34%、80歳以上:7.92%、そして、2022年夏の第7波では、重症化率は、60歳未満:0.01%、6-70歳代:0.26%、80歳以上:1.86%、致死率は、60歳未満:0.00%、6-70歳代:0.18%、80歳以上:1.69%

( 厚生労働省アドバイザリーボード資料(2022年12月21日))

(※)主な感染症の致死率

(1類) エボラ出血熱:ザイール型で約90%、スーダン型で約50%、天然痘:約20~50%

(2類)  鳥インフルエンザ(H5N1):約50%、結核:約15%、SARS:約10%、ジフテリア:約10%

(3類) コレラ:約2%

(4類)  デング熱:約2.5%、マラリア:約10%。狂犬病:発症した場合は、ほぼ100%

(5類)  通常の季節性インフルエンザ   60歳未満:0.01%、60歳以上0.55%

また、新型コロナの感染拡大防止対策については、随時、その必要性や内容が見直され、陽性者を全員入院させることは行われなくなり、オミクロン株が主流となってからは、濃厚接触者の範囲が家族や施設内のみに限定され、空港での水際対策も緩和され(中国は別ですが)、医療機関による陽性者の全数届出も行われなくなりました。

このように、新型コロナに対する対応は、実状に合わせて、5類に近いところまで変化してきており、その必要性や効果の観点からも、行政による「入院隔離」や「外出自粛要請」などの意義が低下しているのであれば、「新型インフルエンザ等感染症」から外すことが妥当である、ということになります。

ただし、オミクロン株は、感染力が非常に強いという問題がありますし、広く一般に使用できる治療薬がまだ無い、長引く後遺症があるといった点などについて、今後も注意が必要だと思います。

なお、3類・4類を飛ばして、5類となる理由は、3類・4類は、動物を介して、あるいは、飲食物を摂取すること等によって感染するといった特殊性を持つ感染症のカテゴリーであるためです。

■「分類変更をしたら、医療ひっ迫が改善する」わけではない

第8波でも医療ひっ迫が問題となっていますが、「新型コロナを5類にすれば、医療ひっ迫が改善する」という話は、私は必ずしもそうではないと思います。入院と外来とで、事情は異なりますが、いずれにしても、原因が何であるかを正しく分析しないと、問題は解決しません。

まず、入院について見てみます。

「新型コロナの患者が入院できる医療機関が、特定、1類、2類の指定医療機関に限られているから、受け入れる病院が少ない」という説は、事実認識が正しくありません。感染症法上、「緊急その他やむを得ない理由があるときは、指定医療機関以外で知事が適当と認める医療機関に入院させることができる」(26条2項で準用される19条1項但書き)とされており、実際に指定医療機関以外の病院で新型コロナウイルス感染症の患者を入院させています。

例えば、東京都には、指定医療機関は37病院(特定:1病院,1類:4病院,2類:32病院)ですが、実際には142病院が「新型コロナ感染症入院重点医療機関」に、84病院が「新型コロナ感染症疑い患者受入協力医療機関」に指定され(一部重複あり)、新型コロナ患者の受け入れ病院となっています。(2022年10月1日時点)

「医療のひっ迫」は、日本では、規模の小さい多数の病院に、限られた医療資源(医療従事者、病床、設備など)が分散されてしまっていることに、根本的な要因があります。日本は、人口当たりの病床数は世界一ですが、人口当たりの医師の数は少ない(OECDの38加盟国中、下から4番目)という状況にあります。病床や人材や設備が足りないといった理由から、新型コロナ患者を受け入れていない病院も多く、それは、分散とキャパシティの不足といった構造的な問題です。そして、病院の大きな懸念は、「クラスターが発生して、他の患者さんが亡くなったり、医療スタッフが感染して、人手が足りなくなり、現場が回らなくなること」です。こうした点は、分類を変更しても解決しません。

次に、外来について考えてみます。

各都道府県ごとに、全医療機関のうち「発熱外来」を設置している割合は、約 20%から 60%まで、大きな開きがあります(2022年4月厚労省公表)。つまり、各都道府県において、約40%から80%の医療機関では、新型コロナの外来診療をしていないという状況にあります。地域の診療所では、「ゾーニング(空間分離)ができない」、「医師が一人しかいない」「スタッフや他の患者にコロナが広まっては困る」といった理由で、コロナ診療に消極的なところも多くあります。

「厳しい院内感染対策を求められることが、医療機関の対応を難しくしている」という話があります。昨年6月に「効果的かつ負担の少ない医療現場における感染対策」(厚労省通知)として、「『フルPPE(マスク・手袋・帽子・ガウン・目の防護)の個人防護具』、『外来の厳格な時間・空間的分離』、『入院の病棟単位のゾーニング』といったことは必須ではない」とされているのですが、それがあまり現場に浸透しておらず、あるいは、たとえ基準が緩和されても、「スタッフや他の患者を感染させたら困る」という根本的な不安は解消されないため、発熱外来は増えないといった事情もあります。

こうした問題は、行政や医療、そして社会全体の受けとめとして、新型コロナに対する”忌避感”が減り、例えば「通常のインフルエンザ流行時のような対応で問題ないし、責められないのだ」という風に、医療機関自身が考えることができれば、変わっていくと思います。他の医療機関も横並びで変わることや社会の理解が大切ということになります。

その意味では、新型コロナの分類が変更されれば、現在発熱外来を行っていない「約40%から80%の医療機関」において、診察が行われる方向が期待でき(むしろ、拒否することが難しくなります。)、少なくとも外来における医療ひっ迫の問題は、改善が見込めるだろうと思います。

次回は、規制や公費負担の変容、私たちの心構え等について、考えたいと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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