不動産業者が「事故物件」と告知しなくてよい3つのケース 背景にハードル高い高齢単身者の賃貸契約

「最期は病院で迎えるもの」が当たり前である時代がいまや変化しつつある。平成29年の「人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」によると69.2%の人が自宅で最期を迎えたいと回答している。実は、70年前の日本においては80%を超える人が自宅で最期を迎えていた。

それが1970年代の終わり頃に病院死のほうが逆転し、その後も2005年にピークを迎えるまで病院死が増え続けてきた。しかしながら2005年以降は減少傾向に転じている。とはいえ、2019年において自宅で最期を迎えた人は14%、7人に1人に過ぎない。「在宅死」を希望しても叶わない人のほうが圧倒的に多いということだ。

特に高齢の「単身者」にとってはハードルが高いのではないかと思われる。そこで新たに整備された「側面からの支援制度」について見てみたい。一人暮らしの高齢者が自宅で最期を迎えた際に問題となることの一つに、残置物をどうするかということがある。賃貸の場合、家主はなるだけ早く次の賃貸人を見つけたいものの残置物を勝手に処分できず、また家賃が発生し続けるわけだが払ってもらえるものかどうかなどの不安があるため、高齢単身者との賃貸契約自体を躊躇することも考えられる。そこで国土交通省と法務省は「残置物の処理等に関するモデル契約事項」を公開している。

契約時に受任者を定め、契約解除の代理権と残置物を処分できる権利とを与えることにした。では受任者には誰がなるか。まっさきに推定相続人や親族が思い浮かぶが、そういった存在がない場合や、あっても遠方で疎遠の場合も考えられる。遺言書が存在し、遺言執行者がいれば兼任して受任者になってもらうこともできるだろう。できれば、受任者の適性として賃貸人や管理業者、家賃債務の保証を負う者以外の者が要請されると思う。

もう一つの問題点を挙げさせて貰うと、不動産業者による「人の死の告知」についてだ。賃貸であれ売買であれ、告知を行うことによって取引が行いにくくなることがあるならば、それを避けるために高齢の単身者との取引はハードルが高くなるわけだ。

そこで国土交通省は2021年10月に告知指針を公表した。いわゆる「事故物件」として告知しなくてもよいケースのガイドラインだ。

①対象の不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)は経過期間にかかわらず、告げなくてよい。

②対象不動産と通常使用する共用部での①以外の死、特殊清掃等が行われた①の死については、3年間が経過すれば告げなくてよい。

③対象不動産のお隣や通常使用しない共用部での①以外の死、特殊清掃が行われた①の死については経過期間にかかわらず、告げなくてよい。

とされた。ただし、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案は告げる必要があるし、取引の判断に重要な影響を及ぼすと思われる場合は告げる必要がある。また、問われた場合は正直に回答しなければならないとした。判断基準を示すことによって、なにもかも事故物件として扱われるのではないかという不安感を拭い去ることにはなるだろう。

在宅死を望んでいる人が実際に在宅死を選択できようになるために最も重要なことは「在宅医療」の充実だ。もちろん在宅での「緩和ケア」を行う体制も必要だ。そして、まずは本人や家族の意思決定のためのACP(人生会議)で医療や介護の専門家との対話を重ねていくことだ。(世界文化社「在宅死のすすめ方完全版」より)フェーズによって考えが変化していくことも当然あり得る。それに寄り添っていく連携の体制が求められている。

◆北御門 孝 税理士。平成7年阪神大震災の年に税理士試験に合格し、平成8年2月税理士登録、平成10年11月独立開業。経営革新等認定支援機関として中小企業の経営支援。遺言・相続・家族信託をテーマにセミナー講師を務める。

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