創業1844年、おでんの老舗「たこ梅」がクラファンに挑むワケ 5代目店主に聞いた

 170年以上の歴史を誇り、日本一古いおでん屋さんとして知られる「たこ梅」(大阪市)が9月8日からクラウドファンディングに初挑戦し、好ダッシュを決めた。コロナ禍での休業や時短要請にめげず、何とかのれんを守り抜こうとする試み。栄養満点のクジラ肉を使って、日本を元気に。5代目店主の岡田哲生さん(55)らに心意気を聞いた。

 これはユーモアとアイデアで逆境に立ち向かう大阪人の物語である。

 創業は弘化元年。初代の岡田梅次郎さんが立ち上げ、多くの作家や文化人に愛されたおでんの老舗「たこ梅」もさすがに度重なる休業、時短要請などの厳しい制限により、苦境に立たされている。

 実際、大阪市内4店舗のうち、ホワイティうめだにあった東店は今年3月31日をもって、58年の歴史に幕を閉じた。道頓堀本店の和田訓行店長(45)が現状を打ち明けた。

 「これまで曜日をしぼって店を開けたり、時短でやってきましたが、今年に入ってからは3カ月も開いてません」

 それでも、明るさを失わないのが、たこ梅スタッフのいいところ。休業中はファンクラブによる試食会を開いたり、広報担当でミニ四駆好きの谷口雅志さん(31)らの発案などで様々なイベントを実施。さらに崖っぷちTシャツなども作り、半ばやけ気味に、それでもいまできることを楽しんだ。

 今回のクラウドファンディングもそうした流れのひとつ。たこ梅といえば、タコの甘露煮と並んで登録商標にもなっている鯨の舌を煮込んださえずり(R)が二大名物とあって、岡田社長は「おいしくて楽しいことをおうちに届けて、息苦しい日本を少しでも明るくできれば」と願い「創業以来180年近く付き合って、ノウハウのある『鯨』で何かできないか」と6月ごろに思いついたそうだ。

 そこで鯨の高い栄養価にも注目し、思い思いに付箋に書いてアイデアを出し合い、それを形にしていった。例えば、鯨チャーシューは鯨ジャーキーに発展したという。

 「クジラの肉は低カロリー、高タンパク。鉄分が多く、それでいて血液もサラサラになり、特にバレニンという成分はスタミナ源でストレスにもきくんじゃないか。みんな元気になれば、と思った」

 今回のクラウドファンディングの目玉のひとつでもある「ハリハリ鍋セット2人前」(Makuake限定価格1万円)は7月末に試作を開始。最終的に肉の部位は赤身、鹿の子(下アゴ部分)、さえずり、本皮4種類とした。

 岡田店主によると味の決め手となったのは「脂が出るさえずりと本皮。実はこれ、おでんの出汁のおいしさの秘密でもある」とのこと。「入れる順番を間違えないようにしてください」と言う。30代前半の谷口さんは「クジラ肉は臭くて硬いのでは、と思っていましたが、エーッと驚くほど、まろやかで奥が深い味になっています」と絶賛した。

 その他にも幻の味「長須鯨大和煮」や自家製の特製からしに鯨のタンを燻製にする一手間を掛けてから漬け込んだ「鯨タンからし和え」など。さらに、錫でできた上燗コップつきのセットも用意され、これにお酒を注げば、たこ梅にいる臨場感を味わうこともできる。

 今回の価格設定は6000円から6万5000円まで。熱心な競輪ファンで選手とも交流がある道頓堀店の和田店長は「コロナになったからこそ必要に迫られ、新たにできたことや見えたものもある。応援メッセージはありがたいですし、競輪の佐藤慎太郎さんが真っ先に注文してくれたのもうれしかった。求められていると思うとモチベーションになります」

 クラファンの締め切りは10月1日午後6時まで。10月2日以降、商品を順次発送する。実際に応援サイト「マクアケ」をのぞいてみると早割が支持されているようだ。もちろん、あの大人気のおでんのお取り寄せ通販も行っており、今後はキッチンカーの計画も進んでいる。

 「手探りですが、みんな力を合わせ、たこ梅の良さを伝えていければ」

 5代目店主の下、大阪の老舗おでん屋さんは苦境の中にあっても、おもしろさを見つけ、のれんを守り抜こうとしている。

(まいどなニュース特約・山本 智行)

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