「人生最後のギャンブル」もあっさり撤回?認知症との未来、フロントランナーは蛭子能収だ!「思う存分ツッコんで」

認知症の当事者や家族の物語は、感動エピソードや介護のしんどさをメーンに描かれがちです。「認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が楽になる本」(光文社)に登場する漫画家・タレントの蛭子能収さんは、ちょっと違います。「最近は物忘れが激しいし」と人生最後のギャンブルとしてボートレース平和島に乗り込みますが、最終レースで散るや、「引退?そんなこと言ったっけ」とあっさり撤回。いいなあ、自然体の蛭子さん、認知症を公表した後も、やっぱりおもしろい。あれ、目からから汗が止まらない。

■おかしな行動、変な発言、面白ければ笑って 

蛭子さんは2020年7月に放送されたテレビ番組「主治医が見つかる診療所」(テレビ東京系)でレビー小体型とアルツハイマー病を併発している初期の認知症と診断されました。認知症を公表後、テレビの仕事は激減したそうです。 

同書の「はじめに」で、蛭子さんは〈オレの周囲の空気がなんか変わったような気がします〉と当時を振り返ります。以前なら、感情のおもむくままの蛭子さんの言動は「おもしろい」と評判だったのに、診断後は〈あまり笑ってくれなくなった気がします。寂しいです〉。最近、問題視されがちなテレビの「いじり」についても嫌いではなく、〈ボケておかしな行動をしても、変な発言をしても、その言動自体がおもしろければ笑ってもらえたらうれしいし、思う存分ツッコミを入れてくれてかまいません〉とつづります。 

蛭子さんは「女性自身」で長年、連載「ゆるゆる人生相談」を持っています。以前から人気だった空気を読まない迷回答ぶりは、認知症公表後いっそう磨きがかかり、相談者の心をふっと軽くさせ、相談の手紙やメールは増えました。「蛭子さんは『いくつになってもお金を稼いでいたい』というブレない願いを持っており、なんとかその思いに応えられないか、と本書を企画しました」と光文社の担当者。「蛭子さんは『人がどう思うか』『人にどう思われるか』よりも『自分がどう生きるか』を何より大切にしている人。それでも愛されるのは、とても優しい、気遣いの人だからです。30歳近く年下の私にもいつも敬語ですし、蛭子さんの怒った顔や偉そうにしている顔は見たことがありません」。

 出版のきっかけには、蛭子さんが〈オレとオレ以外にちょっとした隙間が空いてしまった〉と表現した周囲の反応もありました。厚労省の試算では、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推計されます。「認知症の人が当たり前にいる時代が目前です。にもかかわらず、公表したとたん、蛭子さんのテレビ出演が激減してしまうなど、『何かおかしいのではないか』と思える状況を身近で見ていました。ならば認知症についてみんなで考えるきっかけとなる本にしたかった」と担当者は語ります。

■「ま、いいか」が当事者も、介護者も救う

 同書は、「ゆるゆる人生相談」や「ボートレース平和島密着ドキュメント」のほか、マネージャー・森永さん、担当記者の山内さんも登場します。山内さんは蛭子さんの口癖の「ま、いいか」に触れ、自身の家族の介護と重ねあわせ、私たち社会に必要なのは寛容さであるとつづります。〈認知症になっても仕事をしながら社会と共生する-。その先頭を走るのは蛭子さんになるかもしれない。〉と持ち上げつつも、〈本人はそんな重責を担うことは嫌がるかもしれないが、きっと「ま、いいか」と言ってくれるだろう〉と結びます。

 妻の悠加さんの実体験という介護のリアルも描かれます。ひどい夜は10回以上起こされ、睡眠をとれないまま過ごす昼間は、蛭子さんの幻視に悩まされ、2017年から3年間で、悠加さんは4回、救急車で病院に担ぎ込まれました。ストレスからくる急性胃腸炎でした。蛭子さんが近所の喫茶店から帰れなくなったこと、公表に至る迷い、最近蛭子さんの口から「ありがとう」の言葉が増えたこと…。迷いつつも〈今は、働きたいというよっちゃんを支えていこうと考えています。〉と胸中を明かしています。

 「認知症介護にはきれいごとでは解決しない問題が山積みで、介護者には時には蛭子さんみたいな『自分ファースト』の姿勢が必要だと思います。そんな介護のあり方についても考えてみましたので、本書から少しでも心を楽にするヒントを見つけてもらえたらうれしいです」と担当者は話しています。

(まいどなニュース・竹内 章)

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