高校生の息子が大麻で逮捕  “たった一度”が地獄に…「怖すぎる」薬物撲滅ポスターに秘めた母の苦悩 

 日本を代表する怪奇漫画家、日野日出志さんが描いた一枚の薬物乱用撲滅ポスターがあります。黒い画面に不気味な妖怪や化け物がウヨウヨと描かれ「一度でも使用すれば、意識障害、幻覚、幻聴…」そして「死」の文字も。小さい子にはトラウマになりそうなほどの恐ろしさで、その怖さ故に厚生労働省や東京都にもコラボを断られたそうですが、あえてこの図柄にした裏には、高校生の息子が大麻で逮捕された母親の苦悩がありました。

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■ある朝突然、警察が…そして退学、転居、引きこもりに

 「あの日のことは、今でも昨日のことのように覚えています。足元がフワフワして、現実感がなくて…息子は真っ青になり、震えているようでした」

 関東地方に住む女性(46)は、当時高校生だった息子が大麻取締法の共同所持容疑で逮捕された日の朝を、そう振り返る。一人っ子で、めいっぱい愛情を注いで育ててきた。息子が中学の時離婚し、女性はフルタイムで働き始めたが、息子は荒れることもなく、「むしろあまり自己主張せず、大人しい性格」だった。「それがいきなり大麻だなんて…。親の方も、知識も何もない。状況が全く理解できなくて、『実は寂しい思いをさせていたのかも…』と自分を責め続けました」

 警察によると、息子は主犯として逮捕された友人の家で、数人と大麻を使用。ただ、使ったのはその日1度きりで、取り調べにも正直に認めたため、すぐ釈放された。家に戻った息子は「どんなものなんだろう…と、興味本位だった」「吸ったけど気持ち悪くなってやめた」と淡々と話し、女性が「もうしないで」と言うと「うん、分かってる」と小さくうなずいた。

 逮捕の噂は一気に広まった。学校には居づらくなり、自主退学。周囲の目を避け家も引っ越した。女性も仕事を変えた。「でもドタバタしている方がラクだった」と女性。生活が少し落ち着いた頃から、息子は自分の部屋に引きこもるようになった。ゲームに明け暮れ、口数も更に減り、食事は部屋の前に置いておく毎日。どうにか外に出そうと「毎日そんなことやってないで…」と言うと、怒鳴ったり音楽を大音量にしたり、夜中に出掛けたまま帰ってこないこともあった。

 「腫れ物に触るような感じ。こんなこと、ママ友や友達にだって言えない。何て言っていいか分からないし、何か聞かれても答えられない。『辛い』と口に出すことすら出来なくて、私自身がどうしていいか分からなかった。学校を辞めて将来の不安もあった。『まさか、なんでこんな事に…』と後悔ばかり。出口が見えず、本当に、しんどかった」

■「薬物の本当の怖さ」学校でも教えて

 そんな日々が数カ月ほど続く一方で、女性は生活のため新しい仕事を始めた。「それが、私にはかえって良かったんです。働いている間は事件のことも忘れられた」と女性。その年の年末、何気なく息子に「届かないから、窓拭いてくれない?」と声を掛けると渋々とやってくれた。少しずつ会話が増え始め、昨春には涙で気持ちをデトックスする「涙活」のイベントに誘ってみたところ、「いいよ」と応じてくれたという。

 「まさかOKしてくれるとは思わなくて、私の方がびっくりして…。私はイベントの間号泣していたんですが、息子も『あのシーンは面白かった』『あれはイマイチ』と話しながら帰りました。二人で出掛けるなんていつ以来か…。少しずつ変化を感じました」と女性。それから1年余り、コロナ禍を経て息子は近々アルバイトを始める予定だという。

 「息子の話を聞いていると、最初は、お酒やタバコのような感じだったんだろうな…と思います。でも、たとえ『たった一度』でも、全てを失ってしまう。高校時代って一番キラキラして楽しい時期。息子にしてみれば、友達は前と変わらず過ごしているのに、自分はもう違ってしまった。私(母親)がどうしていいか分からず悩んでいるのも感じるし、将来の不安も…と、一番しんどかったと思う」と女性。「人それぞれだから何が正解かなんて分からないけれど、子どもがもう一度前を向くには、やっぱり時間が必要なんだな、と…。焦って軌道修正しようとするとお互いストレスだし、見守ってあげるしかないんだなと、今は思います。そして、親も子もネットの情報に惑わされないよう、学校で薬物の影響や本当の恐ろしさをきちんと教えて欲しい」

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 冒頭のポスターは、この話を聞いた涙活プロデューサーの寺井広樹さんが日野日出志さんに依頼し、制作しました。「薬物は、特に脳や神経系に大きなダメージを及ぼし、幻覚や妄想が凶悪犯罪に繋がったり、交通事故を引き起こしたりと、本人のみならず周囲の人や無関係の人たちにまで取り返しのつかない被害を及ぼしかねない」と寺井さん。大麻に関連して逮捕される10代が急増する中、「大麻は『依存性が低い』という俗説もあり、手軽さもあって急速に広がっていますが、依存症になり周囲も巻き込んで “地獄を見る”可能性があります。でもこれまで目にしてきたポスターはどれもインパクトが弱くて、薬物乱用の本当の危険性、恐ろしさをダイレクトに伝えるものはないと感じた」と言います。

 厚生労働省や東京都にコラボを持ちかけましたが、「怖過ぎる」などの理由で断られたそう。それでも今後は教育機関などでの掲出を検討しており、「単に薬物の怖さを強調するだけでなく、自分を大切にする気持ちも育めたら」と話しています。

(まいどなニュース・広畑 千春)

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