ペットショップの子犬・子猫たち その裏にいる「販売できない子」たちの存在

某大型ショッピングモール内にあるペットショップの子犬・子猫コーナーは、連休ともなるとたくさんの人でごった返します。そこでは、係員が子犬・子猫を抱っこさせてくれます。抱っこする前には、手に消毒スプレーを噴霧することになっています。一見清潔で、ペットのことを考えているようですが、実際はどうでしょう。

お客さんが多かった日の夜、ペットショップ併設の動物病院には、彼らがたくさん運び込まれました。

ある子は元気食欲が無くなり、下痢が始まっていました。ストレスがかかったのでしょう。ある子は前の手が痛くて挙げていました。抱っこされるときに前の手を強く引っ張られたようです。両眼が真っ赤に腫れあがっている子もいました。消毒スプレーを浴びてしまったり、体中に付いてしまったりして粘膜がやられたのではと推測しました。ある子は、その日を境に全身状態が悪くなり、やがてお店から別のところへ連れて行かれてしまいました。

ペットショップで無邪気に遊んでいるようにみえる子犬・子猫たちは、実はいろいろな試練の中で過ごしています。このように、ペットシショップでお客さんを待つ毎日も大変ですが、ペットショップにやってくるまでの「選抜」も過酷といえるかもしれません。

ペットショップで販売する子犬・子猫はどこから来るのでしょうか。昨今は様々な形態がありますが、市場(いちば)というものも存在します。市場では、野菜や魚と同じように、ブリーダーが持ってきた子犬・子猫がセリにかけられます。

セリに出すときは、今ではとても念入りに獣医師による健康チェックがなされます。多くは元気で外観上も問題のない子たちですが、ときどき見つかるのが『心臓に雑音がある子』です。心臓に雑音がある場合、その子は短命に終わる可能性があるので、ブリーダーに戻されてしまいます。

ここで「ちゃんとチェックしてはるんやなぁ」と感心するだけで終わらないでくださいね。そこで心雑音のあった子犬・子猫たちは、どうなるのでしょうか?…実はその後はケースバイケースです。

子犬・子猫で心雑音がある場合の多くは、生まれつき心臓に奇形や不具合がある子です(先天性心疾患といいます)。犬の先天性心疾患のなかで一番多いのは動脈管開存症(27.7%)、猫では心室中隔欠損症(15.0%、心臓の心室の左右に穴が開いていて交通する病気)だったという報告があります(1999年)。

動脈管開存症という病気は、人間や他の動物でも確認されています。これは、『動脈管』という生きていく上では必要のない血管が残っている病気です。

赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる頃は、赤ちゃんは空気を吸えないので肺は機能していません。ですから肺をショートカットして血液が流れるように、大動脈(全身に血液を送る血管)と肺動脈(肺に血液を送る血管)の間にバイパスを作って、肺には血液が流れないようになっています。一方で、お母さんのお腹から出てしまえば、今度は自分で空気を吸って酸素を身体に取り込まなければなりませんので、そのバイパスは必要なくなり消えてなくなります。しかしそのバイパスが消えずに残ってしまうのが動脈管開存症です。

バイパスが残ってしまうと、必要以上に肺に負担がかかってしまい、短命になる可能性が高いのです。しかし、早期にこの病気を発見してバイパスを塞ぐ手術を行えば、その後はこの疾患の無い犬猫と同様に、寿命をまっとうする事が出来るようになります。

私が大変お世話になっております某先輩獣医師は、この動脈管開存症で販売できない子犬・子猫を引き取り、自分の動物病院に勤務する若手獣医師にこの動脈管開存症の手術をさせ、誰かに飼ってもらうという試みをされていらっしゃいます。

生き物を売買することに対しては、いろいろな考え方があると思います。購入されたにしても譲渡されたにしても、あるいは拾ったにしても、ご縁があってお家にやってきた犬や猫たちです。お家にやってくるまでの辛かったことや痛かったこと、怖かったことやしんどかったことなどは、彼らは語ってくれません。ただただ、私たち人間を全面的に信用してくれて、過去の辛かったことは思い返したりせず前を向いて生きていく彼らを、私はとても尊敬しています。飼われた犬や猫たちはみんな、幸せになって欲しいなと思うばかりです。

(獣医師・小宮 みぎわ)

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