日本サッカーを大阪から変える C大阪・日置社長の経営論 異業種で得た知見で改革続々 海外移籍に危機感「適切な取引」訴える

 J1C大阪の日置貴之代表取締役社長(52)がデイリースポーツの取材に応じ、クラブ改革の展望を明かした。2021年東京五輪の開閉会式のエグゼクティブプロデューサーを務めるなど、スポーツビジネス分野での活躍を経てサッカー界に進出。育成システムや選手の移籍、獲得について、サッカー界の外側から持ち込んだ知見を続々と取り入れて変化をもたらしている。「サッカー界はターニングポイントに来ている」と語る、就任2年目を迎えた異端のクラブ社長の経営論に迫った。

 大阪から日本サッカー界が変わるかもしれない。C大阪のクラブ改革の先頭に立つのが25年に就任した日置社長だ。02年W杯日韓大会でマーケティング業務に携わったが、サッカーと深い縁はなかった。だからこそ、その新鮮な知見が改革の糧となっており「全方位的にまだまだやれる領域はたくさんある。地域にとってサッカー、セレッソがなくてはならない社会的な価値をもたらさなければいけない」とビジョンを語る。

 競技の側面では選手契約の見直しにも着手した。「契約書の中身がビジネスベースではなかった。(Jリーグが開幕した)30年前と変わらない」と驚きを隠さない。特に移籍に関しては「単なる選手供給の国になってしまう」と現状への危機感をあらわにし「適切な取引」の重要性を主張した。下部組織で数億円をかけて育成した選手が安価で、時にはトップチームを経ずに夢の実現のため欧州へ渡る。「主語をクラブに変えた時、事業体として考えた時に明らかに利益を失っている。サステナブル(持続可能)な経営ができなくなるというリスクをはらんでいると、どれだけの人が認識しているのか」と訴えた。

 今夏には下部組織出身の石渡ネルソンがシントトロイデン(ベルギー)に完全移籍したが、25年夏にザルツブルク(オーストリア)に移籍した北野颯太の約2倍に迫る、クラブ史上最高額となる規模の移籍金を獲得。さらに北野の移籍ではなかったセルオン条項(選手が別クラブへ移籍した場合、発生した移籍金の一部を以前に保有していたクラブも受け取れる契約条項)も付帯した。妥協を許さない交渉でクラブの利益も確保した。石渡については将来的な海外移籍に備えて事前に契約をまき直し、移籍金の設定も済ませていたといい、事前準備が功を奏した形となった。

 「(選手に)世界に羽ばたいてほしいし、活躍してほしいのはわれわれも一緒。ただ、われわれも慈善事業団体ではない。次の世代に事業を継承しなければいけない」

 世界の舞台を目指す選手に当然リスペクトはある。その際、移籍金やセルオン条項は選手、代理人側からすれば時に移籍の足かせにもなる。夢を応援するあまり、そういった取り決めがおろそかになることも珍しくないという。クラブ経営者としてビジネスの側面を無視するわけにはいかない。

 「ギリギリのラインを見つけてくるのが仕事。例えば移籍金を下げてセルオン(の割合)を大きくするとか、お互いにメリットのある方法はある。(石渡)ネルソンがチームに残してくれたものを最大化して、その資産を使って次の世代が残っていけるように。われわれは1年、2年ではなく10年、20年の計画でやっているので理解してほしい」

 育てた選手の資産的価値の最大化にも注力することはもちろん、選手、クラブ、代理人といった携わる全ての人がメリットを得られる方策を模索し続ける。

 選手の補強戦略でも明らかな変化が表れた。これまでは代理人会社を通じた依頼などを主に用いていたが「われわれが必要な選手を必要な形できちんと定義し、明確に言語化していく」と主体的に取り組む。世界中の選手のプレーを分析するオンラインサービス「Wyscout(ワイスカウト)」の使用はもちろん、データ会社と協力し「セレッソ向けのプログラムを作って必要な選手を世界中からリストアップできるようになっている」という。

 スプリント回数や距離、最高速度は時速33キロ以上、左利きが必要だが絶対ではないなど、優先条件を点数化し、データベースと突き合わせていく。イスラエルやポーランド出身といった、従来の代理人会社がカバーしていないような選手まで候補に挙がってくるといい、代理人の紹介による選手とも比較しながら、パフォーマンスの数値や年俸、移籍金の金額などを判断基準に獲得の意思決定を下している。

 「関係者の人たちが見て『間違いない』という情報と、データ上で正しいと、両方に丸がついているなら取りにいこうと。根本から選手の取り方を変えた」

 今夏に移籍金ゼロで獲得したジャクソン・アーバイン(オーストラリア)、パブロ・サバック(シリア)や期限付き移籍で加入したハビ・エルナンデス(スペイン)といった外国人は新たなルートで迎え入れた選手で、現場が求める選手を正確に獲得できる土壌が築き上げられてきている。

 南野拓実(モナコ)ら数多くの日本代表選手を輩出し「育成のセレッソ」とも呼ばれた。その伝統も本来はチームの資産となり得る。日置社長は育成の「再現性」を追求する。「例えば南野選手が13歳の時に、どういう選手だったか誰も分からない。みんな感覚として『別格だった』と言うんですが、何がどう『別格』だったのか。今いる選手で誰が能力的に近いのか。そういうことが分からないといけない」。当時のデータがコーチの個別の携帯電話に残ったままになっていたこともあったという。それらをクラブに集約して、データベース化させていくことから始めた。

 今年1月には、かつて香川真司が所属したドイツ1部ドルトムントとオフィシャルクラブパートナーシップを締結した。「育成」と「女子」の分野での連携が主となるが、「海外の知識をいただいて、とにかく情報量、知識量を増やしていく」と狙いを強調。「セレッソ・メソッド」として構築されれば、それはクラブの大きな「資産」となり、優れた選手を安定的、継続的に育成していくことができる。

 大阪という世界的な都市を拠点とするクラブとしての責任も自覚する。「大阪という自治体の名前を付けている以上、大阪に対して還元していかないといけないし、責任を果たしていかなければいけない」。より強く、より愛されるクラブに-。C大阪がJリーグに新風を吹かせる。

 ◆日置 貴之(ひおき・たかゆき)1974年、東京都出身。上智大卒業後、博報堂に入社。2002年サッカーW杯日韓大会のマーケティングに携わり、その後は起業してプロ野球日本ハムの北海道移転に伴うブランディングなども手がけた。10年からプロアイスホッケーチーム「栃木日光アイスバックス」の代表を務め、16年リオデジャネイロ五輪の閉会式や21年東京五輪の開閉会式にも携わった経歴を持つ。25年2月にC大阪の代表取締役副社長に就任。同4月から代表取締役社長に昇格した。

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