川崎・家長昭博 苦い経験と長い時間が醸成した晩成~スペイン時代を知る記者からの言葉

2011年2月26日のマジョルカ-バルセロナ戦でイニエスタと競り合う家長(左)=撮影・島田 徹
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 J1川崎のFW家長昭博(32)が2018年の最優秀選手賞(MVP)を受賞した。チームの2連覇に大きく貢献したプロ15年目のベテランの道程は平たんなものではなかった。長年、スペイン・リーグを取材し、今もマジョルカ島で活動するデイリースポーツ通信員の島田徹氏は、家長のスペイン時代を振り返り、思いをつづった。

  ◇   ◇

 家長昭博が川崎でリーグ連覇に大きく貢献、自身も年間最優秀選手に選ばれたとの報道を目にして、若き日の姿を見た一人として、とてもうれしく思っている。同時に僕がしたり顔で当時のことを振り返れば彼が好んで思い出したくない記憶が蘇るのでは…との恐れも抱いている。なぜなら僕は、これまでの選手キャリアで一番もがき、出口が見えないような感覚で過ごした時期を知る数少ない日本人だろうから。

 彼と初めて出会ったのは2010年12月15日のこと。マジョルカが日本人獲得に動いているとの情報を受け、代理人がクラブ会長と密会しているというパルマ・デ・マジョルカ市内のホテルへ向かった。ところがフロント前のソファーに一人で大きなスーツケースとともに座っていたのは家長本人。この時点ではマジョルカ加入が正式発表される前で、後から現れた会長に追い払われるようにその場を立ち去らざるを得なかったことを覚えている。引き離されるまでの数秒のやりとりで家長はこう言った。

 「僕の夢は単にマジョルカに入ることじゃなくて、ヨーロッパで活躍すること」

しかし、加入後2得点を挙げて輝いた瞬間があったものの、定位置を確かなものにし、もっと言えばマジョルカを踏み台にさらなるステップアップを果たすことはなかった。

 この中では自身とは直接関係ないところでの逆風もあった。

 (1)チームの外国人枠の関係で最後まで去就が決まらず。一時はスペイン以外へのレンタル放出の目もあったが、冬の移籍市場最終日にブラジル人選手(DF)が退団し滑り込みで選手登録されたこと。

 (2)クラブ上層部と現場サイドで補強方針にすれ違いがあり、複数の中心選手が移籍。選手の顔ぶれが大きく変わる中で新シーズンがスタート

 (3)入団当時の指揮官で、特に攻撃面で選手に自由を与えたマイケル・ラウドルップ監督が成績不振により解任。守備と規律重視のホアキン・カパロス監督が後任だったこと。

 最後のスペイン人監督への体制変更は家長にとって大きくマイナスへ働いたに違いない。単に選手として出場に不利な状況になっただけではない。自他共に認める親分タイプで、敵はもちろん味方選手さえも威圧しかねないほどの迫力でまくし立てる熱血漢。彼にとってはコミュニケーションもままならない状態なのに、いきなり“上司”から詰め寄られる場面があった。現に試合中に途中出場を告げられベンチ前でジャージを脱ぎながらもさらに急ぐよう急き立てられ、逃げ込むようにピッチへ立った日もあった。結局同監督の元ではほとんど出場機会が与えられず、追い立てられるように韓国へ新天地を求めた。

 2013年7月。1年半ぶりのマジョルカ復帰は2部にカテゴリーを落としての再スタートだった。それでも開幕戦でMF田邉草民が所属していたサバデルに0-4と完敗。チームには1部復帰はおろか2部B降格の危機さえある中で徐々に自分の居場所を失った。

 ここで家長の欧州での挑戦は終わる。マジョルカと契約を解消、大宮への加入は選手としての自信回復のために下した決断だった。それ以前に韓国、そしてガンバ大阪へ戻ったあと日本の複数チームから声がかかりながらもガンバで半年プレーを続けたのは再び欧州で戦いたいという執念があったから。にもかかわらず願いが叶わないという現実を突きつけられた時の落胆は、周囲には想像できないものだったはずだ。

 そんな激動の時期から、およそ5年が経過した。この間マジョルカは一度2部Bまで落ち、今季から2部へ復帰。家長の当時を知るメンバーのうち3人はエイバルの選手として1部リーグでプレーを続けることを選択、その過程で乾貴士とロッカールームを共にした。ロシアW杯で活躍した日本代表選手はベティスへ移籍したが、補強責任者はマジョルカの主要株主だった時に家長を獲得したセラ・フェレールだった。

 同時期の家長の日本での働きぶりは日本のみなさんの方がご存知だろう。ガンバ下部組織時代の仲間である本田圭佑、セレッソ大阪時代のチームメイト、香川真司や乾貴士と比べれば低空飛行と言わざるを得ないのかもしれない。しかし日本でキャリアを立て直し、そして30歳を過ぎてから大輪の花を咲かせた要因の1つ、またはその伏線が地中海に浮かぶ島にあったと信じたい。

 彼は決して器用でもないタイプだったが、自分から慣れない言葉でチームメイトへ話し掛けた。一度はマジョルカを離れたが、正月にはチームメイトに挨拶するためだけに再渡航した。まだスペイン語が満足ではない中、逃げ道を絶つため、それまで付き添っていた通訳に別れを告げたことも…。小さな1つ1つの積み重ねが、その時点では実を結ばなかったとはいえ、長い目で見て一歩一歩前に進む契機になったのではないだろうか。

 冷静に考えて、早くから天才と評されていた選手が増してプロ生活14年を過ぎて技術的・戦術的に突然飛躍するとは思えない。家長昭博の現在の活躍は彼の人間的な成長が確かな礎としてある。

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