多田悦子の人生観変えた試合 会場は気温40度、控室はトイレの世界戦「王者であっても挑戦者という感覚」 

 自身プロデュースのボクシングジム「LOVE WIN」で女子のパイオニアとしてのボクサー生活を振り返った多田悦子
 9回、TKOで宮尾綾香(左)を下し、ガッツポーズ=20年12月3日
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 5月に引退を表明したプロボクシング女子のミニマム級で世界主要3団体を制した多田悦子(42)=真正=が、5日までにデイリースポーツの取材に応じ、アマチュア、プロを通じて25年の現役生活を振り返った。計4本の世界ベルトを獲った女子のパイオニアへの取材を通じて女子ボクシング界の厳しさを痛感した担当記者が、その過酷さを紹介する。

  ◇  ◇

 世界戦18試合のうち、多田は4試合を海外で行った。自身のキャリアで最も印象的だったのは、利き手の左手人さし指を骨折しながら戦い、引き分けたトリニダード・トバゴでの防衛戦だという。

 治安の不安や敵地の洗礼を案じ、現地在住の邦人と大使館員が総出でバックアップし、ボディーガードまでつけてくれた。実際、ホテルの部屋では「(扉を)バンバンたたかれたり、何度もチェックアウトしろと電話がかかってきたり」。試合会場は気温40度、控室はトイレだった。「あれで人生観が変わった」という試合で、自身に根付いたのが「王者であっても挑戦者という感覚」だった。

 20年の年間表彰では、男子は井上尚弥(大橋)、女子は多田が最優秀選手賞に輝いた。しかし、米国へ進出した男子が立つ華やかな舞台と、多田が戦ってきた海の向こうはまったく違うものだ。

 引退前に米国からSNSを通じて届いた統一戦のオファーは、現WBA、WBC女子ミニマム級王者のセニエサ・エストラダ(米国)からだった。世界的プロモートを手がけるトップランク社と後に契約するスター選手で、高額のファイトマネーも提示されたが、40歳を過ぎて王座を陥落した多田には、はい上がる時間がなかった。

 多田は「やりきった」と言った。その言葉にうそはない。ただ、日本女子ボクシング界の普及と地位向上に献身的に尽くしてきたからこそ、本場のリングに立ってほしかった。そこでスポットライトを浴びる姿を見てみたかったとも思う。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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