2030年フランス・アルプス五輪へ向かう新サイクルの最初のシーズンとなる今季のフィギュアスケート界で、大きな話題となっているルール改正が行われた。フリースケーティング(FS=フリー)のジャンプ数の削減にコレオスピンの新設など、長年親しまれてきた競技の姿にも何らかの変化が起こりそうだ。この変更が選手たちの戦い方をどう変えるのか。観る側はどこに注目すればいいのか。国際スケート連盟(ISU)が目指すフィギュアスケートの方向性とは何か。長年ジャッジとして競技を見続けている国際レフェリーの𠮷岡伸彦氏に聞いた。

 ジャンプ数が減り、演技や表現に割ける時間が増える

- 今季はジャンプ数の削減やコレオスピン導入など、大きなルール改正がありました。フィギュアスケートはどう変わると感じていますか。

𠮷岡氏 まずフリーではジャンプがこれまでの7回から1回減って6回(連続ジャンプが2本になった)になったり、同じ種類のジャンプは3回までになったりして制限が厳しくなることで、結果的にプログラムを表現する時間が増えることにつながります。ジャンプそのものは空中にいる時間は短いですが、準備動作まで含めるとかなりの時間を使います。その分、演技や表現に割ける時間が増えることは間違いないと思います。

 ただ、ジャンプ数が減ったからといって、ジャンプが得意な選手が極端に不利になるわけではないとも感じています。これまでは合計で11本跳んでいたのが9本に減りますが、減るのは比較的基礎点の低いジャンプですし、点差としては思ったほど大きくない感じがあります。

 また、スピンの基礎点も約1.2倍になる数字の変更もあるなど全体的に引き上げられてスピンの比重が高まるとも言えますが、こちらも差が劇的に広がるというより、もともとの差が少し拡大する程度になるくらいです。 回数を減らして数字を変えるなどの今回のルール改正によってすべてが一変するというより、ジャンプが減って表現する時間が増えたことでコンポーネンツ(演技構成点)が高かった選手が有利になりそうで、少しずつ影響が現れてくるのではないでしょうか。

-特に注目されている新しく導入するコレオスピンについては、どのように見ていますか。

𠮷岡氏 コレオスピンとは本来、音楽やプログラムのコンセプトをスピンで表現する要素ですが、今季の地方大会を1試合見た限りでは、従来のレベル取得用スピンを音に合わせているだけに見えるケースも少なくありませんでした。ですので、現時点では、まだ誰も正解を見つけていないという印象です。

 重要なのは「スピンを音楽に合わせる」ことではなく、「音楽をスピンで表現する」ことです。なので、2回転回らなくてもよく、音に合わせたイメージで次々とポジションを取ることができますし、簡単なスピンでもきれいで音に合っている姿勢で回ることができれば、振り付けの中でしっかり表現できているかが判断されるので、振付のアイデアやスケーターの音に対する感覚の違いが結構、評価の差になって出てくるかと思います。

 今後シーズンが進むにつれて、コーチや振付師、スケーター、そしてジャッジも理解を深めていくでしょう。その中で、本当に音楽を表現しているコレオスピンが高く評価される流れができていくと思います。もう少し時間が経って工夫したコレオスピンが出てくれば、分かりやすくなるし、楽しく面白く見ることができるはずです。

サマーカップの女子フリーで演技する島田麻央=2026年8月12日・木下カンセーアイスアリーナ(共同)
サマーカップの女子フリーで演技する島田麻央=2026年8月12日・木下カンセーアイスアリーナ(共同)

-ジャッジ側もまだ手探りの状況なのでしょうか。

𠮷岡氏 もちろんです。見たことがないものですから。いまはまだ、ルールブックの中に書かれている文章では理解していますが、実際に競技の中でどう機能するのかはまだ正確には分かりません。

 コレオシークエンスも導入当初は何を評価する要素なのか分かりにくかったですし、きちんと音楽に合わせて表現するようになるまで結構、時間が掛かりましたね。それが、今ではプログラムを盛り上げる大事なパートになっています。それと同じことをスピンでもやってほしいということなので、コレオスピンも同じように時間をかけて成熟していくのだと思います。