【野球】“投手王国”健大高崎、打線のキーマンはプロ注目2年生 ルーツはドラ1豪腕の祖父
第107回全国高校野球選手権に出場する健大高崎(群馬)に“機動破壊の申し子”がいる。2年生ながら1番打者として打線をけん引する石田雄星外野手。50メートル走6秒の俊足と抜群の打撃力で、青柳博文監督(53)が攻撃の「キーマン」として名前を挙げる存在だ。
栃木県佐野市出身だが、小学校高学年の頃から健大高崎の野球に注目してきた。「お父さんから、『機動破壊』で名をはせていた健大高崎が自分に合っているんじゃないかと言われて、『ここしかない』とずっと感じていました」。甲子園初出場当初から掲げられているチームスローガンにのっとった徹底して足を絡める機動力野球は、石田にとって魅力的に映った。
理由はもちろん、自慢の走力を生かすためだ。中学では小山ボーイズに所属し、遊撃手と中堅手としてプレー。3年時に出場した関東ボーイズリーグ大会では、付随して行われる恒例のベースランニング大会で歴代3位タイの14秒38をたたき出し優勝(中学の部)を果たした。
現在もベースランニングには絶対的な自信を持つ。「直線の走りというよりは、自分の強みはコーナリングのうまさだと思っている。二塁からホームに返ってくる到達タイムは誰にも負けたくない気持ちがあります。単打でも二塁を狙えるような練習もしてきました」と胸を張る。
隙のない走塁はそのままに、打力も強力なものとなった現在の健大高崎。その一員となった石田は、昨夏の甲子園で1年生ながら2試合に先発出場し聖地初安打を放った。1番に定着した今春センバツも全4試合に先発出場してチーム最多5得点。今夏群馬大会も4試合で打率375、1本塁打、4打点と活躍し、延長十一回タイブレークに及んだ前橋育英との決勝では連覇を決めるサヨナラ適時打を放った。
最速158キロ右腕・石垣元気投手(3年)やトミー・ジョン手術から復活した最速147キロ左腕・佐藤龍月投手(3年)、センバツで好投した下重賢慎投手(3年)を筆頭とした全国屈指の投手陣を擁する同校において、石田は打撃面のポイントとなる存在だ。
抜群の野球センスのルーツは、祖父・真さんにあると考える。足利工で1972年夏の甲子園に出場した真さんは、栃木では1学年下の江川卓氏と双璧をなしたと言われる豪腕で、同年のドラフトで阪急に1位入団。雄星が生まれる前に亡くなったものの「憧れのおじいちゃん。自分の強みである肩の強さは、おじいちゃんから来ているのかなと思います」と尊敬の念を抱く。
高校当時、身長184センチ、体重81キロだった真さんに対し、雄星は身長170センチ、体重72キロと野球選手としては小柄。ただ、前述の通りの高い能力でスカウトも注目の存在だ。阪神・吉野誠スカウトは「足もあって、(打撃は)振れる。肩も強くて、おもしろい選手」と評価する。石田自身も「祖父が見た景色を見たい」と将来の夢はプロ野球選手だ。
グラウンドを離れると、愛らしい笑顔が印象的な“弟キャラ”。1・2番でコンビを組む主将の加藤大成内野手(3年)は「いつもくっついてくる。冗談で『邪魔だ』って言ったりもするんですけど、ずっとで(笑)私生活ではベタベタで、かわいい後輩です」と笑う。プレー面では「本当に頼りになります。1・2番が鍵になると思うので」と信頼も厚い。
記者自身、印象に残っている姿がある。昨夏群馬大会で桐生第一と激突した3回戦。最終的には延長十一回タイブレークでサヨナラ勝利する緊迫した試合の終盤、緊張でこわばった表情のまま中堅の守備固めに走る背番号20の選手がいた。「雄星がんばれー」「雄星しっかりー」。そう先輩たちに何度も励まされていたのが、石田だった。
その選手が、今や健大高崎のリードオフマンとして堂々とグラウンドに立っている。石田は「入学する前に全国制覇という偉業を成し遂げたチームの中に自分が入らせてもらっている。自分で大丈夫なのかという不安とともに、自分がエラーしたら3年生の引退につながるというプレッシャーがかかっている」と本音を明かす。ただ「それは大きな経験」とも言う。高みを目指す先輩たちとの日々は、かけがえのないものだ。
今春センバツでは準決勝で横浜に敗れ、最後の打者となった。「甲子園の借りは甲子園でしか返せないですし、チームを勝たせられる選手になりたい。3年生と、もっと一緒に野球がしたい」。大好きな先輩たちと一番長い夏を過ごすため、群馬のスピードスターが聖地を駆け回る。(デイリースポーツ・間宮涼)





