【野球】「中学が人生のピークでは困る」トミー・ジョン手術の権威が挑む指導者の意識改革 逸材消滅の危機訴え

 日本の「トミー・ジョン手術」の第一人者である慶友整形外科病院(群馬県館林市)のスポーツセンター長・古島弘三医師は、手術を執刀する一方でスポーツ障害の予防にも精力的に取り組んでいる。日本ポニーベースボール協会理事、群馬県の軟式野球連盟理事を務め、指導者講習を通じての啓蒙活動など、故障を予防して選手を育てるための意識改革を訴えている。

  ◇  ◇

 小学生からプロ野球選手まで数多くの肩肘の故障と向き合い、800件もの靱帯再建手術を行ってきた古島医師は、故障を防いで育てることの重要性を痛感している。

 「中学生や高校生に対して、痛めたらすぐに手術という風潮はよくないわけです。逆にケガをしないようにどう育てるかを、野球の指導者がしっかり考えていかないといけない。各野球連盟もそうです。まずは野球界の人が認識を改める必要がある」。そう苦言を呈する。

 医師として、骨の発育が未熟な小学生が、負荷のかかり過ぎにより、骨が靱帯から剝がれる裂離骨折を起こしているケースに数多く直面してきた。「小中学生で痛めた子は、高校、大学で痛めた時に治りにくい。ケガの後遺症があるかないかで、その後も違ってくる。ちゃんと治さないと高校、大学までもたなくなって、トミー・ジョン手術をしなければ復帰できないことになってしまう」と致命的な故障につながることへ危機感を募らせる。

 「本当にまれな症例」と前置きした上で、小学生にトミー・ジョン手術を行った事例についても言及。「身長が180センチぐらいあり、骨も大人に近いぐらいの選手だった。その子が投げると勝つので、ずっと投げさせられ、靱帯がボロボロになり全く投げられず、手術をしないと野球ができない状態になっていた」。突出した存在のエースに負担が集中する現状を憂えた。

 訴えるのは指導者の意識改革、指導法の改善だ。「たくさん投げることで投手を育てるのではなく、いかに今までより減らして育てるかを考えていかないと。たくさん投げていい投手になるという時代が過去にありましたが、そういう古い考えではダメなんです」と従来の考え方を一刀両断。

 「今は科学的に肘や手、指の角度など画像解析で全部調べることができるし、進化している。そういったものを利用して投手の育成を考えていく時代になっている」と指摘する。

 数年前にドミニカ共和国に視察、調査に訪れ故障予防への思いはより一層強くなったという。

 同国はメジャーリーグの約20%を占める150人もの選手を輩出しているが、野球肘などの障害が少ないという。現地ではエコーで検査も実施し、指導者と意見交換。「1人の投手に負担をかけさせることがなく、ローテーションを組んで球数も少なく、たくさんの投手に経験を積ませている。罵声、怒声もない。練習時間も3時間くらいで子どもが本当に野球を好きになるよう指導していた」という。

 自身がスポーツ障害を治す外科医でありながら、対極にある予防に取り組んでいることについてドミニカの指導者からは「真逆なことをやろうとしてるけど、真理はそこにある」と言われ背中を押された。「予防することが医学の最終的なゴール。病気にならないことが一番いい。(手術の)仕事がなくなってもいいと思ってますよ」と覚悟を示す。

 地元では中学硬式の「館林慶友ポニー」の代表も務め、「中学で壊してしまったら元も子もない。中学が人生のピークになったら困る」と投手経験がなかった選手にも投手を経験させたり、トレーニングに科学的なアプローチを取り入れたりするなど勝利至上ではないチーム作りを実践中だ。

 「ケガをしないことは、将来プロ、メジャーで活躍できる肩、肘を持ってるということ。ダイヤモンドの原石かもしれないわけですよ。小中高を含めて絶対にケガをさせない、痛めさせないという気持ちで指導にあたってほしい。それに不随して各連盟が肩肘を守るルールを作っていってほしい。いい選手がずっと投げ続けると、ほぼほぼケガをする。せっかくの逸材が消滅するかもしれない」と警鐘を鳴らした。(デイリースポーツ・若林みどり)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

インサイド最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス