【野球】トミー・ジョン手術で球速アップは都市伝説か…日本の権威、古島弘三医師に聞く手術の現状

 二刀流復活を目指すドジャースの大谷翔平選手をはじめ、国内でも多くのプロ野球選手が受けている「トミー・ジョン手術」。肘関節の内側にある内側側副靱帯の損傷に対する靱帯再建手術でアメリカのフランク・ジョーブ医師が1974年にトミー・ジョン投手に初めて行ったことで知られる。同手術の国内の権威である、慶友整形外科病院(群馬県館林市)のスポーツ医学センター長・古島弘三医師に手術の現状、手術で球速が増すという巷の噂の真相などを聞いた。

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 古島医師はこれまで同病院で20年近いキャリアを重ね、プロアマ合わせて800件以上のトミー・ジョン手術を執刀してきた。

 手術は、損傷した靱帯に他の部位から持ってきた腱を移植して再建するもので「骨(上腕骨)と骨(尺骨)に小さいトンネルを掘って、自分の手の長掌筋腱などを骨のトンネルに通してつなげて肘のグラグラをなくす」という。

 古島医師が行っている術式は「伊藤法」と呼ばれ、日本で初めてトミー・ジョン手術を行った同病院の伊藤恵康(よしやす)院長が米国流をアレンジした方法だ。

 「オリジナルは、骨に腱を通して引っ張り糸で結んで固定しますが、伊藤法では骨を釘代わりに使って腱をトンネルに固定します」。骨を使うことで、従来よりも腱の癒合が早く復帰が早い利点があるという。

 古島医師は2016年から伊藤法をバージョンアップし、再建に使う腱をねじることで強度を上げている。それにより、「手術後に少なからずあった緩みがなくなり、術後成績(復帰率)がさらに上がって復帰が速くなっている」という。手術後に全力投球ができるようになる割合は現在は92~95%という高水準を誇る。

 これまでに古島医師が手術を行ったプロ野球選手は、元ヤクルトの館山昌平投手など100件以上にのぼる。多くの症例があることで「手術への恐怖がなくなり、確実に来年のこの時期に復帰したいという、メドが立つ。選手もリハビリをしやすいし、希望も持てる。肘に関して言えば復帰時期が見込めるので手術を受けるハードルは昔より下がっている」と説明する。

 リハビリ期間も米国より短いタイムスケジュールを描けている。「米国だと14、5カ月ですが、プロ野球の1軍選手の場合、8カ月で全力投球を許可、10カ月で2軍戦で投げて、1年で1軍登板ができます」

 かつて、プロ野球選手が肘にメスを入れるのはタブーの時代があった。「昔はスポーツ医学というものがあまりなく、スポーツ選手に手術するという考えがなかった」というが、83年にロッテの村田兆治投手がジョーブ医師のトミー・ジョン手術を受け、懸命なリハビリを経て復活。決死の覚悟で臨むしかなかった手術への認識にも変化が生まれ、医学の進歩、技術の発達とあいまって、手術を受ける人が増えていった。

 気になるのは都市伝説のように語られるトミー・ジョン手術にまつわる話だ。手術をすると球速がアップすると言われており、館山投手も自著「自分を諦めない 191針の勲章」で実際に球速が上がったと記しているが、それは強い腱を移植したからなのだろうか。

 この疑問を古島医師は否定する。「手術で強度が上がったから球が速くなるわけではありません。ゴルフクラブみたいに、硬いシャフトだから(飛距離が)遠くとか、そういうことではない。都市伝説です」

 球速アップの要因としては「手術をして1年ほどのリハビリ過程で、選手は投げ方、体の柔軟性、体の使い方といった自分の悪いところを改善する。いろいろなトレーニングをするし、また痛めたくないから努力する。ケガをしたら余計に努力するわけで、それがうまくいった人は球が速くなる」と説明する。

 米国でも誤解がまん延していたことがあったという。「一時期、手術をすると球が速くなると思って、肘が痛くもないのにトミー・ジョン手術を希望する米国の高校生が増えたそうです」。スポーツメディアの記者への調査でも半数以上が手術で球速が上がると答えたといい、誤った認識への注意が喚起されたという。

 ちなみに日本でのトミー・ジョン手術は保険診療になるため、手術の自己負担額は10万円ほどからだが、米国は自由診療で医師が費用を決めるため、高年俸のプロ野球選手が受けるとなると、日本とは比べられないほど高額になるという。(デイリースポーツ・若林みどり)

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