【スポーツ】大の里だけじゃない!序ノ口力士の「初勝利」が伝える大相撲の魅力 元関脇若の里・西岩親方の弟子愛に見た確かな輝き
大関大の里の2場所連続優勝と、綱とり成就が注目を集めた大相撲夏場所。場所中のトークショーに登場した西岩親方(48)=元関脇若の里=の言葉からは、日々大きく扱われる幕内優勝争いだけではない、大相撲の魅力が垣間見えた。
現役時代(1992年春~2015年名古屋)は、真摯(しんし)な土俵で大関とりにも挑んだ西岩親方。中卒たたき上げ。曙、貴乃花、武蔵丸、朝青龍、白鵬ら横綱とも戦ってきた。大の里の入門時には、師匠で鳴戸部屋の弟弟子だった稀勢の里(元横綱=現二所ノ関親方)からの要望を受け、大正から昭和にかけて活躍し、故郷青森の名大関、大ノ里の親族からしこ名使用の許可を取った。
2018年2月に独立し、西岩部屋を東京都台東区内に構えた。現在は弟子10人、行司1人、呼び出し2人が所属する。
弟子の成長がやりがいだ。昨年春場所で初土俵を踏んだ序ノ口力士、若佐々木を取り上げた。
「若佐々木は相撲未経験で入門しました。親御さんは『息子はゲームばかり。このままだと、どんな大人になるか分からない。相撲が強くならなくていいから、鍛え直してほしい。立派な大人になって社会に出てもらえれば』と言っていましたが、やはり勝ってもらいたい。でも勝てない。5月、7月、9月、11月、4場所連続で7戦全敗。本人も悩んでいました」
そこで「勝つ喜びを知ってほしい。1番でも勝ってほしい」と部屋一丸で指導。若佐々木は泣きながら、泥だらけになって稽古した。そして、今年初場所で初勝利。親方は「たかが序ノ口力士の1勝でも涙が出るほどうれしい。電話、ファクス、メール、そして花まで届いた。それくらい皆に気にかけてもらった」と振り返った。
春場所では2勝、今場所は1勝だった若佐々木。親方は「次は勝ち越しの喜びを味わってほしい。勝ち越した時は、涙をこらえる自信はないです。そして花以上のものが届くでしょう」と笑顔を見せた。
部屋運営に関しては、物価面で「想像通り大変です。米の値段は倍以上。野菜もなんでも上がっている。特に米ですね。力士に『食べるな』とは言えない。死活問題です。米の差し入れも減った」と苦労も明かした。
関取誕生はまだかなわず、苦労も多いが、表情は明るい西岩親方。
「私は中学を卒業して、親は反対しなかったが、周りの反対を押し切って大相撲に進んだ。自分で決めたこと。そして相撲が好き。定年まで一番好きなことで生きることができれば、こんなに幸せなことはない」
スポットライトが当たりにくい部屋にも、大相撲の確かな輝きは存在している。(デイリースポーツ・山本鋼平)
◆西岩 忍(にしいわ・しのぶ 本名・古川忍。元関脇若の里。1976年7月10日、青森県弘前市出身。1992年春場所で初土俵。2015年名古屋限り(番付上は翌秋場所)で引退。通算613勝568敗124休。三賞10回(殊勲賞4、敢闘賞4、技能賞2)。19場所連続関脇・小結在位は史上1位。田子ノ浦部屋から2018年2月に独立。浅草に現部屋を構えた。