【スポーツ】復帰戦Vの織田信成が語る「僕らの世代」、高橋、浅田さん「スケート好きが集まった」

 熱演する織田信成=12日(撮影・高部洋祐)
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 フィギュアスケートの2010年バンクーバー五輪代表、織田信成(35)=大阪スケート倶楽部=が、9年ぶりに現役復帰した。来年1月末に始まる国民体育大会(スケート競技は青森・八戸市)への出場を目指し、今月12日に国体派遣選手選考会(丸善インテック大阪プール)に出場。フリーのみ146・05点で優勝した。

 演技前の6分間練習で驚いたのは、いきなり4回転-3回転の連続トーループを2回も降りたことだ。本番では冒頭に入れて転倒したが、わずかな回転不足で4回転と認定されていた。トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)もコンビネーションで2度成功した。

 さらに驚いたのは、競技としての練習期間がたった2カ月だったこと。フィギュア選手は、数日氷に乗らないだけで感覚はまったく狂うという。人によっては半日でも違和感を覚えるとも聞く。9年のブランクは、どれほどのものか。

 引退時以上に精かんになったように見えた顔つきは、4キロの減量の成果だった。「大阪のソウルリバー、淀川を走り込んだ」「毎日オートミールを食べて頑張った」と持ち前のトーク力で陽気に明かしたが、それが高難度ジャンプ成功の要因の一つだろう。練習のリンクは一般営業の限られた時間に使用し、陸上トレーニングを2、3時間に増やした。かなり追い込んだ練習を積んできたのは明らかだった。

 解説者、タレントとして人気を得ながらの今回の現役復帰は、当然ながら過去の栄光にすがるものではない。その理由は、自身で選んだフリー曲の映画「もののけ姫」のテーマに象徴されている。

 「主人公のアシタカの迷いや苦悩、何か探し求めている姿を、おこがましいけど、自分に重ねて表現できればいいなと思った」と織田。引退後の人生の大きな柱であったアイスショーがコロナ禍で激減。昨年2月に左膝の手術を受けたが、ショーが復活し始めた5月頃に、手術の影響もあり技術の低下を痛感した。「お客さんは、お金を払ってきてくれている。それに見合うスケーターにならないといけないと思った」。アシタカのように「どこに世界があるかわからない」と道を探し求めた末に、競技会で技術向上を目指す道を選んだ。

 無意識に背中を押されていると感じるのは、同世代の存在だ。復帰戦と同日、京都ではともにバンクーバー五輪に出場した浅田真央さん(32)の自主プロデュース公演「BEYOND」が行われていた。浅田さんがエールを送っていると聞き、織田は「真央ちゃんのニュースも見たし、大ちゃん(高橋大輔)もアイスダンスですごく頑張っているので、勇気づけられる」と目を輝かせた。

 浅田さんのショーは、有名スケーターが1、2曲ずつ演技する通常のアイスショー構成とは全く違い、自身が演出、構成、衣装、編曲まで手がけた独自のスタイルで全国をまわっている。また、同じ関大でしのぎを削った高橋大輔(36)はアイスダンスで現役復帰して3季目。五輪銅メダリストが、シングルとはまったく違う技術を要する挑戦を続けている。

 彼らに共通するのは、リスクを恐れず、ほとんど誰も踏み込んだことのない世界へ挑んでいることだ。名声を得たアスリートのセカンドキャリアとしては、かなり冒険的だろう。しかし、織田は「僕の同世代は、今も現役バリバリみたいな子が多い。それくらいスケート好きが集まった世代」と言う。

 だからこそ「その中で自分も負けじと頑張りたい」。今はトーループに加え、前回の現役時になかった4回転ループも練習しているという。「ここで新しい4回転ジャンプを跳んだらすごいんちゃうかと思ってて」。何ものにもとらわれない、自由な発想と挑戦。ただ好きなことを突き詰めたいという35歳の曇りのない笑顔は、新しいスポーツのあり方に見えた。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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