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【スポーツ】城の水かけ事件から23年 あの6月29日がやってくる

 今年もあの日、6月29日がやってくる。サッカー日本代表FW城彰二(46)が、成田国際空港で、心ないファンから水をかけられたのは1998年6月29日のことだった。私は日本代表から一足早い便でフランスから帰国し、空港ロビーで待ち受けていた。そして騒音の中、私の目に飛び込んできたのは口の開いたペットボトルを投げつけられ、その口から勢いよく飛び出した水でスーツをぬらした城の姿だった。

 初出場を果たした1998フランスワールドカップ(W杯)で日本はグループリーグで3戦全敗に終わった。その“A級戦犯”として、エースストライカーの城が日本国内でやり玉に挙がっていたことは、1日何度も会社と国際電話で話していたため、知っていた。

 サッカーのサポーターは熱い。予想外の結果に終わったときには、反動でとんでもない行動を起こす。熱狂的なサポーターがスタンドから自転車を投げ込んだのを目撃したこともある。無得点だった城に対して、かわいさ余って憎さ百倍だったのだろう。だが、1人の選手に怒りをぶつけるのは間違っていると当時思ったし、今もそう思っている。

 成田空港を後にした日本代表は成田市内のホテルで帰国会見を行った。その会見が始まる直前、城にトイレの前に呼び出され2人きりで短い会話を交わした。そのときの彼の言葉を忘れることができない。

 ピッチ以外でも若干の付き合いがあり、取材でもいろいろ協力してもらった。1998年1月1日付の紙面では、1面用の写真を撮影するため、何本もシュートを打ってもらった。デイリースポーツが元日付の1面でサッカー選手を扱うのはこのときは最初で、いまだに2回目はない。

 そんな彼が自分にも言い聞かすように、こうつぶやいた。「俺は水をかけられてすんだけど、外国の代表なら殺されていたかもしれないね」-と。1994年アメリカW杯では、予選ラウンドで敗退したコロンビア代表のDFアンドレス・エスコバルが、地元に戻り射殺された事件があった。城の脳裏には、それが浮かんでいたのだろう。

 本当ならサポーターに対しても、説明したいことは山のようにあったに違いない。W杯の本大会でシュートを外した際、「へらへら笑っている」「ガムをかみながらプレーしている」と批判を浴びた件もそうだ。これはメンタルトレーナーと相談し、極度の緊張感を和らげるための手段だったが、「言い訳になる」といって言葉を飲み込んだ。

 また、鹿児島実高時代から前十字靱帯(じんたい)が切れていながらプレーしたため、W杯中も膝の水がたまり、それを抜きながらプレーしていたことも明かさなかった。すべてを飲み込み、城は会見後、自宅には戻らず所属していた横浜マリノスの練習場に向かっていった。

 今後、東京五輪やW杯最終予選がある。結果によっては選手に誹謗(ひぼう)中傷が浴びせられることになるだろう。だが、アスリートに恐怖心まで与える行為は間違っている。6月29日になるといつもそう思う。=敬称略=(デイリースポーツ・今野良彦)

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