【野球】メジャー挑戦への覚悟を感じた!?新庄の一言

 この言葉を聞いた瞬間、取材など吹っ飛んだ。二の句が継げない…いや、この表現だとあきれた感じになってしまう。あきれてはいない。予想だにしていなかった一言にただ驚き、次の質問が出てこなかった。

 「もう日本人じゃないから」

 そう言うと、新庄剛志はニヤリと笑った。その瞬間、私の思考回路はストップ。そのまま新庄と親族が乗ったクルーザーは、港から沖へと遠ざかっていった。その後も語りつがれる新庄語録の一つに入るとは、そのとき思いもしなかった。

 2000年12月24日、阪神から米大リーグ・メッツへの移籍が決まった新庄が、沖縄・名護で結婚式を挙げた。その翌日、新庄家側がクルーザーを貸し切り、相手方の親族らを招待した。その出港前、結婚式から一夜明けた新庄を取材。メジャー挑戦について「不安だらけだけど、成功の可能性が少ない方がワクワクドキドキする」と心境を語った。

 メッツへの移籍決断は、あまりの急展開。それだけにイチローのメジャー挑戦をしのぐほどの注目を集めた。FA宣言から続いた連日の密着取材の“集大成”とも言える結婚式取材だった。もう一言いただこうとした瞬間の「日本人じゃないから」発言だった。

 メジャーへ行くってことは、ええっと…日本人じゃなくなるってことで…いやいや違う違う、外国人枠やから…ん?関係ないない。なんて再び思考回路が作動したとき、すでに新庄は舟の上にいた。後から考えれば、この伝説の一言にメジャー挑戦への覚悟が込められていたのかもしれない。

 彼ほど絵になるプロ野球選手は、その後に出会ったことがない。メッツへの移籍1年目、フロリダキャンプで大勢の報道陣を引き連れる様子を見た米国人記者たちは笑っていた。新庄はイチローとは違う。日本での実績を考えれば、なぜそれだけ注目を集めるのか理解できない。そんなことを言っていた。

 数カ月後、彼らは新庄を連日追いかけることになる。さほど打率も高くない日本人選手を大きく報道し始めた。イチローに負けない抜群の守備力、強肩に加え、ここぞというときの意外性はメッツファンをも熱狂させた。

 今年、48歳となった新庄は現役復帰を宣言した。誰もが無理だと言う。それを聞いて、思い出した。

 「成功の可能性が少ない方がワクワクドキドキする」

 多くの人から通用しないと言われたメジャー1年目、彼はその空気を楽しむかのようにスタメンをたぐり寄せ、日本人としてはMLB史上初の4番も任された。それだけに今回も“ほんまに現役復帰するかも”とひそかに期待してしまう。

 もう日本人じゃないから-。確かに日本だけに収まる選手ではなかった。=敬称略=(デイリースポーツ・岩田卓士)

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