【野球】試合も全体練習もできない…高校野球の危機を乗り切る知恵とアイデア

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、高校野球界もかつてない危機に直面している。センバツは史上初の中止となり、現在は多くのチームが部活動休止。本来なら春季大会や練習試合で実戦を積む時期に、自宅周辺で過ごすことしかできない。この時期をどう乗り切るのか。各校の現状、デイリースポーツ高校野球評論家の星稜名誉監督・山下智茂氏(75)の考えを聞いた。

 春から夏に向かう大切な時期に2カ月間、練習ができない。龍谷大平安は3月6日に野球部寮を解散し、5月6日まで練習休止となっている。原田英彦監督(59)は「当初はLINEなどを通じて指導することも考えたが、今回の局面は選手たちの自立のきっかけとなると考え、自分で考える作業期間にした」とあえて連絡を取らず、選手個々に自ら計画を作って練習させているという。

 「考えるということがそこそこできる子はある程度、体を作ってくると思う」と、2、3年生にとっては自分と向き合う時間をいかに使うかがポイントとなる。一方で不安もある。「入学式が中止になり、5月6日まで新1年生の顔を見ることができない。どんな子たちが入ってくるのかも分からない状態で5月を迎える」と、高校生活を経験しないまま自宅待機となる新1年生を気遣った。

 近江は5月6日まで全体練習休止。感染者の多い大阪府、兵庫県に自宅のある寮生は寮に残るが、そのほかの生徒は休校にともない自宅待機している。密接を避けて学年、クラスごとに週1回の短時間登校日はあるが、練習はできない。多賀章仁監督(60)は「夏に甲子園へ行くチャンスがあるという気持ちを持ちながらやらせている。こういう危機的状況をいかに乗り切るか、自分にできることを最善を尽くしてやろうと伝えた。生活リズムを崩さないように、計画して実践することが大切」と手探りの状況だ。

 興南は休校にともない部活動も中止。我喜屋優監督(69)は選手たちにイメージトレーニングを兼ねた自主練習を課している。「庭でも公園でも、27メートルあれば走塁練習ができる。バッターボックスのスペースがあればスイングの練習ができる」と説く。

 想像力を働かせれば1人でも練習できるということだ。「走塁ならエンドランなのか、けん制が来るのか。打席なら長打を狙うのか流し打ちか。自分で想定すればいい。公園でも甲子園でも、塁間の27メートル、マウンドから捕手の18メートルは同じ」と常に意識して取り組むことを力説する。

 逆境を工夫で乗り越えることは、駒大苫小牧で指導に携わった時からの知恵だ。「雪深い北海道で、外で練習する場所がなくても27メートルあれば走塁練習ができる。雨が降れば長靴を履いてノックを受ければいい。それと同じです」という。

 1カ月にもなる活動休止期間も、人間として成長するための試練と捉える。「長い人生の中では想定外のことも襲ってくる。それをやらない理由にするのか、できることを工夫して乗り越えるか。こういうことがあったから成長できたと、練習再開の時に言えるかどうかです」とプラスに考えさせている。

 山下氏は「春に向けては、冬の練習が大事。冬の間に野球はうまくなる。これからの時期はスタミナをつける。自分に勝つ、夏の暑さに勝つために、6月に猛練習をします。星稜監督時代は“ケンカノック”という、3時間ほどかけた激しいノックを打ちました」と冬から春の練習の位置づけを説明する。

 その上で「この時期に全体練習ができないのは本当につらいでしょう。1カ月という長期間は個人との戦い。ランニング、スイングを重ねて、スタミナの下準備をしてください。心を強く持つ選手は夏に出て来ます」とアドバイスする。

 また、自宅で過ごす時間に強く勧めるのが読書だ。「つらい時は本を読み、心を鍛えるのです。本の知識を得て考え方を変えることができる。私も今年の冬は野村克也さんの本を読み、感銘を受けました」と、人生を照らす1冊との出会いに可能性を示した。(デイリースポーツ・中野裕美子)

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