【スポーツ】渋野日向子を変えた「81」の大たたき
時の人、渋野日向子(20)=RSK山陽放送=の全英女子オープン制覇の陰には81の大たたきがあった。それは4月に熊本空港カントリークラブで開催されたKKT杯バンテリンレディース初日。この悔しさをバネに翌日2日目は一気に15打縮める66の快スコア。わずか24時間の時空を経て、ひとりの天才が覚醒のハードルをヒラリと越えた。
同大会の渋野の各日の成績は、初日が81で106位と出遅れ、2日目66で50位に上昇し、かろうじて予選を突破すると、最終日も68を出して20位でフィニッシュした。初日の81から2日目の66へ。常識の尺度では測れないスコアの変化。最も近くで渋野を見ていた青木翔コーチは当時をこう振り返る。
「81を打った日に電話があって、81打ちました、どうしたらいいですかって言うわけです。私は爆笑しました。よう打ったなって。それで言いました。何も変えることはない、どうせ予選落ちするなら気持ちよく予選落ちすればいい、明日は思い切ってやってこいと」
熊本空港CCは九州屈指の難コースとして知られる。青木コーチは81を打った要因に「考えすぎ」を挙げた。「コースが難しいから難しく考えちゃったところがある。(グリーンの)打ってはいけないところはどっち側とかね。それでスコアを崩した可能性はありますね」と話した。
青木コーチのアドバイスを受けた渋野は、翌日の2日目に66をマーク。この短時間に一体なにが変わったのか。青木コーチはこう見ている。「思い切りのいいゴルフをしたんだと思います。渋野らしい攻めのゴルフです」。それがうまくはまっての66というわけだ。
渋野は2日目の66以降5月のメジャー第1戦、ワールドサロンパスカップ優勝まで11ラウンド連続でアンダーパーを記録。そしてこの流れが7月のアネッサ資生堂レディース優勝、さらに全英女子オープン制覇へとつながっていったわけで、バンテリン初日の81が持つ意味は大きい。
「バンテリンのコースは難しい。そこでプレーして66、68を出したことが、自分の中で自信になったと思う。私は66を出した日に電話でふたごのお姉ちゃんがプレーしたんじゃないのかと言いました。81打った次の日に66で回るなんて普通は考えられないことじゃないですか。今年の第1ポイントに挙げられる出来事です。81を打ったことが(全英を含めて)その後に思い切ってやるための機会を与えてくれたんじゃないでしょうか」(青木コーチ)。
負けて覚える相撲かなという言葉もある。渋野も失敗から学び、一気の成長を遂げた。
(デイリースポーツ・松本一之)