【野球】阪神、新たなファンサービスが多くのファンの心満たした

 長かったキャンプが終わった。阪神の矢野燿大監督は、総括会見でこの1カ月を「90点」と評した。当然、ここからはすべて、結果で語られることになる。秋にはその答えが出るわけだが、この高得点は就任時に「ファンを喜ばせる」と誓った、指揮官の取り組みもあったように思う。

 阪神がキャンプを張った沖縄・宜野座村の「かりゆしホテルズボールパーク宜野座」は今年、大幅に施設を改修。ブルペンやトレーニング施設に加えて、選手がファンにサインするスペースも整備された。選手たちが時間の許す限りこの場所に出向き、ペンを走らせるシステム。来年以降への改善点も多々あったように思うが、それも前向きな議論になるだろう。

 選手も意欲的に足を運んでいたし、なにより混乱を生んでいた安全面が、大幅に改善された。指揮官自ら毎日、必ずこの場所に出向き、平均して30分近くサインを書いた。数にして優に3000枚は超えたという。ファンもサインをもらえる場所が明確になったことで、「試合や練習で動きを見たい派」、「サインもらいたい&2ショット写真を取りたい派」など、基本的には明確に線引きされたのではないか。

 新たなファンサービスの中では、多様な人間ドラマもあった。藤浪晋太郎投手は週末限定で、小学生以下を対象にした即席サイン会を開いた。

 「できる時間は限られている。それなら1人でも多く子供に書いてあげたい」

 競技人口の減少を危惧し、オフも注力する振興活動。藤浪少年が幼少期に桑田、清原らKK世代の野球教室に参加し、プロ野球選手にあこがれを抱いたように、少年少女に夢を届けている。中には「手に書いて」という男の子も。用意されたパイプイスに座らず、膝を付き、1人、1人の目線に合わせてペンを走らせる姿が、印象的だった。

 糸井嘉男外野手は、“触れ合い型”のサイン会だった。始めるやいなや、「あと3人ね!!」と大声で叫ぶと、長蛇の列は「えぇ~!!」の大合唱。

 「オリックス時代から好きでした」

 「(日本)ハムの時は違うんかい!!」

 「乗ってきた。無限に書けそうや。でも、走りに行かないかんから、あと3人ね!!」。それでも5分、10分…。減らない「あと3人」コール。2週目に入った男性を見ると、「1人、5週までよ!!」とツッコんだ。即興漫才のようなやり取りが行われる中、空手の胴着を手にした男の子の番に。

 「世界大会でメダルを獲ったら、糸井選手に会わせてほしい」

 中学1年生になった少年は、母に懇願したという。見事、銀メダルを獲得し、念願かなった3泊4日のキャンプ旅行。今回はアジア大会の選考会前にお守りとして、胴着の裏にサインを書いてもらうことが目的だったという。

 「この胴着を着て、アジア大会に出ます」と喜ぶ少年に、大ベテランは「すごいやん!!頑張ってな、柔道」とオチをつけていた。

 少年は「空手界の糸井選手になりたい」と夢を抱く。約30分、のべ100人近くにサインを書き終えると拍手喝采、うれしさのあまり、感激して泣き出す子もいた。

 たった1枚のサイン色紙、たった1つのサインボールでも、あこがれの選手に触れ、記念として残るであろう宝物には、プロ野球選手の力が凝縮されている。技術、体力を磨くことだけが目的ではない。ファンの笑顔に触れ、心を満たしたもう1つのキャンプの姿。矢野監督が掲げる方針は、選手にも確かに浸透している。(デイリースポーツ・田中政行)

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