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【スポーツ】高橋大輔の「献身」の意味 世界選手権辞退表明に込めた思いは…

全日本2位に入った高橋大輔
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 バンクーバー五輪銅メダリストで今季、4年ぶりに現役復帰したフィギュアスケートの高橋大輔(32)が、全日本選手権で2位に入りながら、3月の世界選手権(埼玉)の代表入りを辞退した。会見での高橋の言葉は、この人らしい思いに満ちていた。

 辞退の理由は2つ。

 「もし選ばれるのであれば行きたい気持ちはありますが、世界と戦う覚悟を持ちきれなかったというところも大きな理由です。今季、現役復帰すると決めたのも遅く、練習を始めたのもギリギリ。全日本選手権でどこまでいけるかまったく想像できない中で、世界選手権のことは頭にありませんでした。それに、僕自身も世界で戦うことの難しさや精神力の必要性を経験している。その覚悟を持てないのに、選ばれたからと言って出るべきではないと考えました」

 この言葉は、もうひとつの辞退理由につながる。

 「日本を引っ張っている選手たちが、世界選手権という一番大きな重圧を感じる大会で経験をたくさん積むことによって、今後の日本スケート界が盛り上がることにつながる。若い選手がその舞台を経験することの方が大きいと考えました」

 高橋は19歳だった2006年トリノで五輪に初出場し8位。女子が金メダルを獲った荒川静香ら3枠だったのに対して男子が1枠だったのは、前シーズンの世界選手権で高橋自身が15位に甘んじたからだった。ともに出場していた日本のエース、本田武史がケガで途中棄権したため若い高橋にすべての重圧がかかり、ジャンプミスを次々と犯してしまったのだ。日本に帰国した時の痛々しい表情は忘れられない。

 それだけに、今回の辞退は心に期するものがあったのだと思う。会見では「それは優しさだが、(本来は若手が勝ち取るべきで)譲るというのはどうなのか」と質問があった。それに対して高橋は「うーん」と何秒か考えた後、こう言った。

 「僕はフィギュアスケートが好きだと素直に言えます。(後進が)どんどん続いて成長してほしいという気持ちと、自分が頑張って勝ち取りたいという気持ちは同じくらい。後輩たちが成長して羽生君を抜かしていく。(宇野)昌磨を抜かしていく。これから出てくる若い人たちがどんどんレベルアップしてほしい気持ちが、自分が活躍したいという気持ちと同じくらいあります。その上で冷静に判断して、僕じゃないだろうと思った」

 実は高橋はこの会見前も、演技直後のミックスゾーン、その後のメダリスト会見と取材を受け続けていた。代表辞退が発表された後、この件に関してだけ改めて記者会見を開いたのは異例だ。自身の口で発信する意味を感じていたからだろう。

 どんな競技でもベテランの存在は議論の対象になる。若手の芽を摘む、チャンスを奪う。そう言われることもある。しかし、高橋の言葉には「オレを超えていけ」と、奮起を促す意味が込められていた。

 「32歳でこの先に希望があるかというと、正直ないと思います」と高橋は冗談めかして言ったが、若手にとってこの「献身」は、とてつもなく厳しい意味を持つ。

 小さい頃から人と争うことが苦手だった。野球や格闘技を習わせても続かなかった。スケートリンクでもアイスホッケーは「痛そう」と言って、フィギュアに興味を持った。

 32歳。辞退した1枠は、1枠以上の意味を持つ。心優しきレジェンドを突き動かした「献身」の思いに、羽生、宇野に続く若手は応えるしかない。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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